劇場公開日 2017年3月31日

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「極私的自分探しの旅に付合う観客は肩透かし」ムーンライト 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0極私的自分探しの旅に付合う観客は肩透かし

2021年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

本作のテーマをひと言で言えば、極私的自分探し。つまり個人史から自分のあるべき姿を探るということである。具体的には、次のようなことを描いている。

「少年時代に面倒をみてくれた夫婦は、ひ弱な自分をあれこれ面倒をみてくれて、まるで太陽と月のような存在であった。自分は道を踏み外し、非行少年たちの中で肉体を鍛えた挙句、犯罪者の顔役となったが、かつて愛した少年が成長して料理人となった姿と再会して、今の自分は偽りであることを知った。自分はひ弱な存在であり、弱いからこそ他者の弱さに寄り添って生きていける。かつて面倒を見てくれた夫婦のように、自分もそのように寄り添って生きていこう」

そんなこと、どの場面で描いているかって? 本作のプロットと、ギリシャ神話に由来する主人公の名前や、原作者の個人的体験に基づくタイトル名(In the Moonlight,Blacks look blue)を踏まえて解釈し直すと、上の要約になるということである。
自分探しの旅だから、スラム、ドラッグ、売人組織等々の、一見社会問題らしきものは、過ぎ去っていく旅の折々の景色に過ぎない。話題になった黒人ゲイの要素は、原作者や監督の生の根源の一部ではあるが、それがメインテーマというわけではない。

さて、それが分かってみて、本作の価値が増すかというと、どうも疑問である。
自分探しの旅にしても、道程が書割り的表面的に過ぎるし、さきに挙げた社会問題やゲイの話題も、単なるトピックスの一つに止まるから、すべて散漫な印象しか残らないのである。
見終わって、何だか当て外れ、肩透かしのような感じを受けたが、考えてみると、それが真っ当な評価ではなかろうか。

2015、2016年のアカデミー賞は、演技部門にノミネートされた俳優が白人で占められ、2016年の同賞司会者クリス・ロックが「アカデミー賞は白人賞だ」と皮肉ったのは有名である。
2017年のアカデミーがどうなるか注目される中、今度はこの作品が8部門でノミネートされ、作品賞、助演男優賞、撮影賞を制したのだった。political correctness は映画賞にもあると感じたのは小生だけではないだろう。

徒然草枕