劇場公開日 2017年3月31日

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「月は、自らは光を放たない。何処からかの光を受けてほのかに明るく月は夜空に浮かぶ。」ムーンライト きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0月は、自らは光を放たない。何処からかの光を受けてほのかに明るく月は夜空に浮かぶ。

2019年1月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

オスカーを獲得して、ズラリTSUTAYAに並んだレンタルDVDだったのだが・・・
30本はありそうなDVDもここまで不人気・売れ残りの新作もなかったろう。
いつ見ても借り出されているのは1本か2本という異常さ。

僕もそんな棚を見てしまえばついぞ手が伸びず、ようやくレンタルしたのが2年後の正月だったのだ。

やっぱり"黒人だけの映画"と聞けば日本人は苦手なんだろうな。
他の人種と混ざっておればね、コメディでもサスペンスでも、あるいは戦争ものでもラブストーリーでもぜんぜんOKなのだが、黒人のみの出演でドラッグ、暴力、LGBT、ネグレクトなどと筋書きを伝聞すると、うーん、イメージが暗くなっちゃってダメみたい。
パッケージもひどく陰鬱だもの。

でもこの感覚って、黒人は=ストーリーに味の変化を付けるためだけの"いろどり"、"添え物"にして"永遠の助演者"=と、僕が思い込んでしまっていたからだろう。

"全員黒人でやってみた!"
黒人でなくても別に支障がないそのストーリーに、敢えて偏った配役を試みたその冒険が、映画製作者による投票のアカデミー賞授与を得た理由なのかもしれない。

パウエルが統合参謀長官になり、
ライスが国務長官になり、
オバマが大統領になり、
映画の世界でも何かが動いていると想像出来る。
「ムーンライト」は、今この時期におけるエポックメーキングな出来事だったのだ。

で、今年の正月休み、
TSUTAYAの棚の「ムーンライト」の在庫はわずか5本にまで減っていたが、同じことを考えていた人たちがいるものだな、ほぼ全巻が借り出されている。
僕を含めて、意を決しての視聴ということだろう。
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物語は
月の光を浴びて弱く写し出されるリトルの、人生の満ち欠けの話だった。

いろいろあってのエンディング。成人したリトルがケビンを訪れ、大切な友達を見つめるその目、その表情がとても美しくてこうごうしくて、心をぎゅっと掴まれる。
ここで初めてリトルの顔から光が放たれるようになったのだ。

それまでの永い年月、売人のファンも、幼なじみのケビンも、夜の間の月のように静かにリトルに光を与え続けた。
それを受けて出口の見えない新月の夜を過ごしたリトルに、ようやくの明るい満月の晩がやって来てくれたようだ。
ただ光を受けるばかりであったリトルが、初めて他者に光を与える時がやってきたのだ
-母親に、そしてケビンに。

月の光だけで発芽をする種子というものはあるのだろうか?
しみじみとリトルはそれだったのだと、思った。

きりん