劇場公開日 2016年10月8日

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「赤、赤、赤。」淵に立つ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0赤、赤、赤。

2016年10月13日
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鑑賞方法:映画館

怖い

難しい

浅野忠信の、ずっと不気味な雰囲気が緊張感をもたらし続けた。「岸辺の旅」やらのぶっきらぼうな演技に、狂気を潜めた得体の知れなさが気持ち悪かった。
それにしても筒井真理子から目が離せない。長い髪をなびかせた中年の色気がよかった。そしたら8年後の姿がびっくりするほどおばさんで、この容姿では発情しないよってツッコみを入れたくなるほど(←誉めてます)。着込んだのかと思ったら13kg体重増やしたのだとか。すごい役者根性だ。

映像は、先述の「岸辺の旅」や「クリーピー」とかの、黒沢清的なものを感じる。日常でいながら、わずかに意識が夢の中に紛れているような会話や家の中は、「トウキョウソナタ」の雰囲気。

不気味な雰囲気は、効果的な「赤」の色彩のせいだろう。
八坂のシャツ、蛍のドレス、孝司のバック、全部赤一色だった。それに引き換え、鈴岡夫婦の地味な服。対照的。孝司が、蛍の絵を描いてるときに、頬に赤い絵の具をぽたっと落とすのも、印象的。庄内へ向かう途中のトンネルの中で章江の顔に真っ赤な照明(本来はオレンジのはずだが)の明かりが当たるのも不気味。その時の台詞も恐い。たいてい、気を抜いているとハッとしてしまう。総じて赤は、平坦な日常で急になにかを突き付けられる際のサイン、スイッチのような役目のようだ。色彩効果抜群。

ちなみに小説も出ている。
映画で表現できていない部分(例えば八坂は蛍に危害を加えようとしたのか、発情したのか)を含め、描写が丁寧でいながら説明過多になってはおらず、映画に比べればストーリーが自然だった。文章もうまい。ぐぐっと引き込まれて一気に読んだ。
で、ここが肝心なことなのだが、小説と映画は結末が違うのだ。
映画の、あの煮え切らないラストに比べ、ウルッとくる会話がある。僕はこちらの方が好きだ。
映画のあのラストだと、観た人間は、戸惑いの淵に立たされて不安が膨らんでいくばかりだ。まあ、それが狙いならまんまとハマっているけれど。

ふいに、僕のところに、八坂みたいな子供の頃の友だちが訪ねて来たらどうしよう?と想像してしまった。
まあ、共犯者になったことはないので後ろめたさはないけれど、やって来た奴があんな生気の抜けた馬鹿丁寧な奴で、おまけに浅野忠信によく似た風貌だったりしたら、何もないうちから恐くて絶叫してしまいそうだよ。

栗太郎