劇場公開日 2016年5月28日

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「緻密で繊細なドラマとエログロでハードな描写、2本分の猟奇と痛みを見せられる監督の強さ」ヒメアノ~ル たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0緻密で繊細なドラマとエログロでハードな描写、2本分の猟奇と痛みを見せられる監督の強さ

2021年11月2日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

興奮

ちょうどハロウィンに京王線の殺傷事件があったので、何だかそれと重ねて観てしまった。勿論許されることではないし、言語道断であるが。しかし、傍から見ればサイコパスでも、その痛みの内側は誰も見えないのだから。個々のドラマに定評のある𠮷田監督だけに、ズドンとやられた。

冴えない男の初恋と、サイコパス男の不穏な事件。交わることの無い二人は同級生という接点で繋がっている。その単純な点にズームしていくと見えてくる秘密。それが凄く苦しくさせる。もう少し関係性が透けて見えるようなシーンが欲しかったものの、エログロで進む猟奇ぶりは高いセンスを感じる。そして、別の映画の如く、開始40分で入るタイトルは強烈。

森田剛が本当に凄い。よくこの役を引き受けたなと思うくらいハードでサイコ。ある時は心のままに殴り続け、ある時は極限に追い込まれる人の最期を堪能する。それでいながら、純真さも滲ませてくるから怖い。一方で、濱田岳のずる賢い感じというのもまた良く分かるタイプで、はぐらかしがうまいくせ、器が小さいのがハマり役。何気にヒロインを釣り上げている所がズルく思えてくる。笑

そして、𠮷田監督の均衡感覚の鋭さに驚く。無差別殺人も描写として逃げずに撮り続け、その絶望感を徹底的に引き出す。それでいながら、痛みをチラつかせてくる。『空白』でその磨きが更に掛かっていた為、ここは少し物足りなく感じたが、それでも十分来る。同時に、犯され殺されていく女優達の演技も凄まじい。徹底的に詰めたからこそ出来上がった猟奇の刹那。その作品作りに感心する。

浴びるような血に、差し込んでくる光の輪。ここに着地させるのかという意外性まで。改めてその評価の高さに納得する作品だった。

たいよーさん。