許されざる者 インタビュー: 渡辺謙&李相日監督「許されざる者」で成し遂げた自信と誇り

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許されざる者

劇場公開日 2013年9月13日
2013年9月10日更新
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渡辺謙&李相日監督「許されざる者」で成し遂げた自信と誇り

李相日監督は「神様のような方」と崇める。監督と主演俳優として「硫黄島からの手紙」を作り上げた渡辺謙にとっても、畏敬の存在であることに変わりはない。そのクリント・イーストウッドの代表作「許されざる者」を再創造するからには、相当な覚悟と努力を要したはずだ。だが、2人の信念がぶれることはなかった。アカデミー賞で4部門を制した名作に敬意を表しつつも、あくまで日本オリジナルの「許されざる者」として構築することにまい進。北海道の雄大な自然に抱かれての撮影は過酷を極めたようだが、2人の表情には大仕事を成し遂げた自信と誇りがみなぎっていた。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

「そりゃあやっぱり、無謀だと思いましたよ」

渡辺は、企画段階で「許されざる者」の打診を受けた時の正直な気持ちをこう吐露する。それだけ高いハードルであることは容易に想像がつくリボーン(再創造)。しかし、李監督がかねて撮りたかった時代劇、興味を持っていたアイヌ民族などさまざまな構想が明治初期の北海道を舞台にしたストーリーとして帰結した結果、主人公・釜田十兵衛には渡辺が不可欠だった。

李「謙さんとご一緒できるのであれば、力強く上を向く男よりは、目線が落ちているというか虚空を見ていて、すごく重いものを背負っているけれど沈みもせず上を向くわけでもないようなキャラクターでやってみたかった。(十兵衛は)行動の説明はつくけれど、意思をあまり表現しない。その中でどう存在してきちんと立っていられるか。そういう稀有(けう)な俳優は謙さんしかいなかった」

2人は仕事を共にしたことはないが、李監督が「フラガール」、渡辺は主演の「明日の記憶」で各映画賞の授賞式で顔を合わせるたびに、「何かあれば一緒にやりましょう」という話はしていたという。それから初仕事までは5年ほどを要したが、渡辺は李監督の製作に対する姿勢を高く評価する。

渡辺「『フラガール』から『悪人』を撮るまで3年かかっているわけで、近年、時間をかけて自分の中で描きたいものが出てくるまで待つ監督はなかなかいない。自分のパッションが形になるまで待つ誠実さと、今までの作品の他の監督にはない深さ、重量感。(イーストウッドの存在より)そっちの方が勝っちゃいました。李さんがやるんだったら、やるしかないってね」

出演を決意し、あらためてオリジナルを観賞。当然、1993年の日本公開時にも見ているが、それから20年近くたっていることに加え、イーストウッドと仕事をしたことで、感想には大きな変化があった。

渡辺「それまでハリウッドのウエスタンって、ヒーローもののエンタテインメントで、すっきりした終わり方が基本だったものが、どこかモヤっとしていて、そこにすごくリアルな苦しみや悩みをボンボンって置いたまま風のように終わっていった映画。それがすごく格好良かったし、ウエスタンの代名詞のようなクリント・イーストウッドがやったことでさらにインパクトがあった。そういう印象だったけれど、あらためて見たら、こんなにスカスカだったのかって思いましたね(笑)。形としてはちゃんとイメージは分かるんだけれど、全部をナタでぶった切るようなシーンやつなぎをしている。それは、クリントの撮り方を分かったうえで見ると、ははあと思えてくるわけですよ」

合点がいったうえで、脚本の段階から経験則を踏まえた率直な意見を具申。李監督と打ち合わせを重ね、導き出した方向性は、日本映画ならではの「許されざる者」だった。

渡辺「第一稿が上がったくらいで、基本的に話の筋はもらうけれど、これはもう僕らのオリジナルなんだって。そこからリメイク感みたいなものは外れました。エキスだけもらっておいて、監督が選んだ北海道であったり、アイヌであったり、戊辰戦争の内乱といったものを全部ぶち込んでいったら、もう日本のオリジナルになるよねって感じがした」

当然、イーストウッドが演じた役をやるという意識も薄れる。ただし、十兵衛の人物設定や背景は詳しく説明されるわけではない。感情の起伏もあまり出さず、他の登場人物のセリフなどでおぼろげに浮かび上がるのみで、なかなかつかみにくい役どころである。

渡辺「いったい何を考えているのか、何をよりどころにしているのか、訳が分かんないんですよ。そういう分からなさ加減みたいなものがあったので、もうロジカルに積み上げるのはやめようと。とにかく北海道の狂おしいくらいの広大な大地に立って、山やセットを見てからじゃないと話にならない気がした。輪郭もはっきりさせずに入っていった感じ」

北海道のロケ地に関しては、李監督が徹底してこだわり抜いた。360度見回してもライフラインはおろか、一切の人工物が映らない場所を探し、主要舞台となる鷲路町の広大なロケセットを建てたのだ。

李「人手が入っていないところはすごく少ない。旅行のパンフレットで大自然だと思っていても、ちょっとカメラを振ったら人工物が入っているところが大半。電気もガスも水道もなくていいから、とにかく人が入っていないところが大前提だったんです」

その信念が、渡辺が役のイメージを膨らませることに寄与した。撮影初日に合わせ、滞在していた上川町から阿寒湖までの約600キロを車で移動したことで、北海道の自然を肌で感じることができたという。

渡辺「山のてっぺんで車を止めて、この山を越えるとどんな感じなんだろうとか、その時点で四季を感じたわけではないけれど、本土とは違う距離感、(「ラスト サムライ」のロケ地だった)ニュージーランドに近い感じ。そういうところで生きてきた男たち、人間たちをイメージするには、いい意味で容易でした」

李監督も、撮影で雄大な自然の中に凛(りん)として立つ渡辺の姿に、徐々に手応えをつかんでいく。だが、渡辺は十兵衛という役に対し「混迷は増していくばかりだった」と苦笑いだ。

渡辺「本当に最後までよく分からなかった。でも、途中で思ったのは分からなくて当たり前なんだと。いっぱい注釈をつけたり、積み上げてきたみたいに思ってやっても、あまり意味がない気がしていた。人間、弾みでこっちに行っちゃったとか、急にUターンしちゃうことはたくさんあるはず。だから、そういうことを無理して埋めようとか、満たそうと思わなかった。もう、混迷のままゆだねました」

そんな中での撮影は昨年9月22日~11月27日。当然、北海道の冬は日ごとに厳しさを増す。ファーストテイクを重視するイーストウッドとは対照的な李監督の妥協を許さない演出もあって、撮影が過酷であったことは想像に難くない。それを乗り越え、クランクアップを迎えた時の心境を、渡辺は“生き残った感”という言葉で表現した。

渡辺「解放でもなくて、本当に帰ってこられたんだという。だから、(アップ後の)1週間くらい、記憶が定かじゃない。毎日寒さと闘っていた時間と、こたつの中でボーッとしているのとでは、あまりに環境が違いすぎて。達成感というか虚脱感。車を電信柱にぶつけたりもしたしね」

だが、渡辺をはじめ共演の佐藤浩市柄本明の苦闘は、不遇の中にあり傷つきながらも生きることに執着する人間の業の深さを的確にとらえ、スクリーンにしっかりと刻まれた。李監督も、納得の表情で振り返る。

李「謙さんのラストカットを撮れて終われた時に、自分の中で誇れるものになった。撮影としても最後だったんです。あの説明のできない存在のあり方という謙さんの顔、見逃す人もいるくらいの一瞬をとらえることができたのは、すごく財産になった気がした瞬間でした」

許されざる者」は第70回ベネチア国際映画祭、第38回トロント国際映画祭と欧米でのお披露目も決定。李監督と渡辺が得た誇りが国境を越え、多くの観客の胸を打つことを期待したい。そして母国・日本ではオリジナルの日本映画として、そのだいご味が広く支持されることを願うばかりだ。

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