劇場公開日 2012年4月7日

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「サイレント映画」アーティスト vary1484さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5サイレント映画

2019年1月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

モーションピクチャーの美しさは確実に現在に受け継がれ、決して色褪せることはない。
トーキー映画の出現によって悩まされたサイレント映画スターの物語。作られたのは、2011年。製作国はフランス。舞台はハリウッド。このデジタル映画の時代にここまで、サイレント映画、1910,1920年代をそのまま映し出すなんてえげつない勇気。
まずこの映画を観終わった後の第一印象は”美しい”の一言。サイレント映画の映像とオーケストラの音楽が全身に伝わってくるような感覚でした。この映画を観て実感したのは、トーキー映画以降の台詞ベースのストーリーテリングのなんともったいないことかということ。人間の感覚は視覚80%と言われているだけに、ビジュアルから感じ取れるものは、台詞なんかより何倍も多く、美しいということに気付かされました。言語というのにはやはり、脳のデータ処理容量を奪い取られてしまい、視覚から入ってくる情報を十分に吸収することができない。

一方この映画は、歴史を語る映画というよりも、歴史的なものをそのまま再現している作品で、素晴らしいフィルメーカーたちの活躍あってこそではあるが、役者の表情、照明、セットデザイン、コスチューム、ロケーション、フレーミングなどのとても細かい部分から感情が誘発される。何を喋っているかよりも、どういう気持ちで喋っているのかの方が最初に入ってくる。
我々が感じる、美しさやワクワク、悲しみなどの感情は意識よりも先にははたらくものであり、言語なんかはただのカテゴリー分けの記号でしかない。俳句にしても、詩にしても、小説にしても我々が楽しむのは、言葉が紡がれる情景であり、表情であり、感情である。
特に時間に縛られる映像は、その言葉を感情へと昇華させる時間を視聴者に与えることが難しい。それだけに、台詞に頼った映画は人を選ぶのだ。

この作品、特に素晴らしく画期的な技術や技法を使っているわけではない。100年前の方法と、これまで映画界の偉人が築き上げてきた芸術を、享受しストーリーテリングの方法として使っているだけである。そのシンプルさが我々に、モーションピクチャーの美しさというものを改めて感じさせてくれたのである。100年前に美しかったものは、現代でも美しいのである。

この作品は歴史に残り続けるだろうし、このような作品は定期的に作り続けられなければならない。ヨーロッパならではの、政治や風刺を差し置いた芸術への究極の挑戦を。

vary1484