劇場公開日 2012年11月23日

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「ラスト40分の大どんでん返しに、すっかり騙されていたことか分かり唖然呆然!」カラスの親指 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ラスト40分の大どんでん返しに、すっかり騙されていたことか分かり唖然呆然!

2012年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 まず2時間40分の長尺を迷わず選択した伊藤監督の決断に拍手したいと思います。この長さが、一連の大どんでん返しに説得力をもたらしました。
 作品の構成は、ほほ2部構成になっていて、阿部寛が演じるタケを中心とした5人のメンバーによる、闇金融に対する復讐としての詐偽は、2時間で完結しています。ここで終わってもいいのですが、観客もふと頭をよぎるように、主人公のタケも、余りにできすぎている一連の出来事に疑問を持って、別れた元相棒のテツを探し出し、裏事情を聞き出す残りラストの40分から、大どんでん返しのネタバレシーンが始まるのです。
 ジグゾーパズルのPEACEをはめ込んでいくように、冒頭から何気なく見てきた出来事の全てが実は、「カラスの親指」的な存在が計画した仕掛けだったことが分かり、タケ同様に見ている方も、唖然・呆然としました。本当に心地よい騙され方でした。というのも仕掛けが解けていくトリックが優しく心地良く、ハートフルでゆったりした雰囲気だったからです。そしてタイトルに託された深い意味について、そうだったのかと納得しました。
 「カラスの親指」の「カラス」とは、色が黒いところからプロの犯罪者を指す隠語だったのです。そして「親指」とは父親の象徴。つまり本作で登場する5人は五本の指で、この指をまとめ、見事悪徳闇金融に復讐を遂げさせたいという、大きな愛で見守られていたのだということが、本作の真のテーマだったのですね。大どんでん返し編では、テツの語る真実に思わず目頭が熱くなってしまいました。

 それにしても、主人公のタケとテツは本作に笑いと癒しを持ち込む名コンビだと思います。テツは偽名の付け方など。ギャグネタを連発。それを鋭くタケが突っ込んで、漫才コンビを結成してもそこそこ売れるのではないかと思うくらい息が合っていました。
 だからこのコンビが、競馬場や質屋を舞台に相手に騙させた、得したと思わして、カネを出させるという高等テクニックを演じさせても、違和感が感じません。阿部寛と村上ショージの主役コンビが共有するユーモラスなベースと人柄の良さが発揮されていると思えました。

 順調に思えた詐偽稼業も、アジトのアパートが突然放火される事態に、暗転。タケは、以前闇金融に手を出したところから、徹底的に痛めつれられたあげく、パシリとしてこき使われて伝われていたことをテツに告白します。そして、腹いせに、闇金融のデータを警察に密告したところから、仕返しがはじまり、家を放火され娘を殺された過去を告げたのです。

 新居の一軒家も格安で借りることができた、タケとテツコンビは上野の宝石街でスリを働いた河合やひろを助けます。余りに偶然でタイムリーなこの出会いは、大どんでん返し編冒頭のテツの疑問に繋がっていくので、しっかり記憶に焼き付けておいてください。
 両親のいないというやひろの窮状に、見るに見かねたテツは、思わず同居を進めて、連絡先を伝えます。
 翌日の朝、ふたりが起きてみると、居間に人影が。なんとやひろが、姉のまひろと姉の恋人の勘太郎を惹きつれて、勝手に上がり込んでいたのでした。なんと言ってもまひろの非常識さが絶品。勝手に上がり込むばかりでなく、当然の権利と言わんばかりに冷蔵庫の飲み物や食べ物を食い散らかすのです。こんなイメージダウンな役をやっていいのかと思うくらいの惚けた役柄を石原さとみが演じていて、びっくりしました。姉役の石原さとみが霞んでしまうくらい、妹のやひろ役の新人女優能年玲奈の演技が良かったと思います。抜群の存在感でした。著名俳優に囲まれても、物怖じするところなくしゃきしゃき演じているのですね。
 奇妙な5人の共同生活ては、ごく普通の市井の人間と変わらない日常生活がきめ細かに描かれていきました。アカの他人同士だった5人の間で絆が深まっていくところは、まるで人情噺を聞いているような、ほっこりした気持ちにさせられます。でもこの5人の関係は、実は深い縁で結ばれていたのでした。大どんでん返し編を見終えて、もう一回ここのシーンを見返すと、きっとああそうなんだと納得されると思いますよ(^。^)

 タケを追い回す闇金融の追っ手はついに新居に及び、放火されたり、やひろが可愛がっていたペットの猫が殺されたり、脅しは日に日にエスカレートしていきます。抵抗したために娘を失ったタケはあくまで逃げ回ることを主張。しかし、やひろやテツは、逃げ回るほどに彼らが力をつけて、よりやばくなることを強調。主戦論を説きます。
 タケを追い回す闇金融は、実はやひろ、まひろ姉妹にとっても自分たちの母親を自殺に追い込んだ共通の仇だったのです。

 5人は覚悟を決めて、鮮やかな手口で闇金融のアジトを突き止めて、完膚なきまでに騙し抜き、まんまと資金を根こそぎ奪取するのでした。ここの展開はぜひ劇場でご覧ください。ここで終わっても納得するくらい、鮮やかなドンデン返しで大金を奪ってしまうのです。それと、昔タケをパシリに使っていた闇金融ボス・ヒグチとタケが遭遇してしまうピンチをどう切りぬけたかというシーンは、抱腹絶倒ものでした。緊迫の連続のなかに、しっかり笑いも取るところがなかなかいいと思います。

 2時間の闇金復讐編のフィナーレは、大金を獲得した5人が離ればなれになるところ。どうも姉妹は、タケが自分たちの母親を自殺に追い込んだことに関係していることに気がついていたようなのです。その許しのひと言が、タケ同様に見ている方もグッときました。でも、本当の感動は、ここからの大どんでん返し編で、語られるもっと凄い真実だったのです。(中身は内緒)

 見終わって感じるのは、主演の阿部寛のポーカーフェイスぶり。真面目な顔して、観客までだまくらかしてしまう飄々とした演技は、プロの詐欺師も顔負けでしょう。楽しんで演じている感じが伝わってきて、本作が彼の代表作の1本として数えられるようになると思います。本作で、結局騙されていたタケではありますが、「カラスの親指」と出会ったことで、詐欺師としてのスケールアップも果たしたことでしょう。続編を望みたいところですね。

流山の小地蔵