「世界観の表現力だけで充分満足できる」借りぐらしのアリエッティ 77さんの映画レビュー(感想・評価)
世界観の表現力だけで充分満足できる
新しめのジブリ作品を観るのはもう何年かぶりですごく久しぶりでした。最近のジブリはダメだとかよく耳にするようにもなったし監督も駿さんじゃないしと期待薄めで観たのですが、見終わった感想はやっぱジブリって凄い!というものでした。私の中でジブリブームがきそうなくらいw
映像美、表現力は全然衰えてるように感じなかったし、むしろ序盤からジブリお得意の草や花が生きてる感じがすごく伝わる自然(今作で庭にねっころがる翔のシーンが一番好きでジブリを観るとああいう田舎暮らしに憧れずにはいられません)と、またその画にすごく合う音楽が利いてすぐその世界観の虜に。まるで芸術です。
サントラはかなり気に入ってしまいました。ハープと透明感のある声、歌詞付きなのに日本語じゃないっていうのもジブリでは新鮮な感じがしたし、エンディングの発音が日本語っぽくない日本語バージョンの神聖な感じも大好き。
原作の良さが後押ししてるのも勿論あるんだろうけど、やっぱりジブリにしか出せない雰囲気の力は凄くて、古今東西にある、ただでさえわくわくする小人ものでここまで魅せられたのは初めてかも。
大小、高低の表現の素晴らしさといったらもう!絵も音も凄い。
特にアリエッティの最初の“借り”のシーンが印象的でした。食器棚に現れて、飛び降りて(←ココが好き)、粘着テープを用いて“クライミング”。角砂糖もどうやって持って帰るんだろうと思っていたら一粒だけで鞄いっぱい。
こんな感じでピアスがクライミング道具になったりクリップがヘアアクセになったりマチ針が剣になったり(あれ絶対鞘的なものがないと危ないw)、随所にみられる小人たちのそれをそう使うかっていう工夫の仕方にもすごく胸が躍らされたし、
比較対象がないと小人ってことを忘れそうになる小人たちだけのパートも、ダンゴムシとか私たちにとってわかりやすい例を用いて大きさの世界観を伝えてくれて、
そっかアリエッティたちの使ってるものってシルバニアファミリーとか食玩みたいな感じなんだよねと、いう大前提のわくわくを絶えずに色んな角度から表現していて観てる者に違和感を感じさせない作りにはさすがとしか言いようがありません。
というか手の平サイズのアリやダンゴムシなんて恐怖すぎるけどw、私たちにとってのハムスターみたいな感じなのかな?(人間界では同じ大きさでもネズミは大分扱いが違うのも興味深いポイント)それとももっと身近で共存する対象?
そしてアリエッティもアリエッティハウスも超可愛い!あの自然の中っていうのがまたわくわくを増幅させてくれます。
小人界に独自の科学とか技術が発達してるわけじゃなく“狩り”のノリで“借り”なところもツボな部分です。欲を言うなら【ティッシュ】とかには独特の違う呼称があったらもっと好きな世界観だったかも。
“借り”っていってもなんらかの形で返すつもりは見受けられなかったけどw、そもそも傲慢な人間に“貸し”があるっていうことなのかなと受け止めて自己解決。
そもそも泥棒じゃん!というのは人間の感覚ですもんね。なるほど、深いです“借りぐらし”。
大は小を兼ねるけど“大”にできないことが“小”にできたりもちつもたれつでいいなと思わせてくれたりしてたのでオチはあの素敵なドールハウスに引っ越すのかと思っていたけど、人間とは共存できないという別々の道を行くエンディングも感慨深いものがありました。
ただああなってそうなる説得力だとか起承転結のナチュラルな経緯、人物の掘り下げ方は全体的に弱かった気がします。そこが丁寧だとメッセージの響き方ももっと深みのあるものになった思うし(それでも伝わりましたが)、そのため登場人物たちの魅力を最大限引き出せてないまま終わっちゃた感があって消化不良にしててもったいなかったです。
素敵な一代目のひいおじいちゃんや大叔母さんの人となりをもっと知りたかったし、アリエッティパパやママの活躍ももっと見たかった。あんまり“悪者”がいない(パッと思いつくのはムスカくらい)ジブリの中でハルさんはなんでああなのかとか、主人公たちにももっと感情移入できたら更に良かったです。
アニメーターとしてはジブリ一優秀、監督としては未知数という部分が吉とも凶とも出た感じですが、長年温めてきた『床下の小人』を駿さんが自分で撮らなかった意味は充分あった気がします。
“もしも”をこんなに美しく楽しくドラマチックに仕上げたものを見れただけで私は満足です。
なんでこんなとこにこんなものが?ってたまにあるけど小人の仕業だったりしてと思ってしまうくらい、ジブリの演出は“もしも”が“もしかして”にみえてくるので本当に夢があるなあと思います。たまに小さいおっさん見たとか言う人もいることだし私もいつか出会えたらいいなw
ほとんど俳優メインで活動してる声優陣もたまに地声がでてたりしてたのは気になったけどジブリっぽくてすごくいい感じでした。
宮崎さんが頑なに“声優”NGなのは辞めてほしかったけど、この感じをだしたかったんだなと納得させられました。
全っっく関係ないけどクレヨンしんちゃんでひろしが借りてきたDVDが『間借り暮らしはありえんて』っていうアリエッティをパロったものでしたw
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12/16金曜ロードショーで二回目を観たらなんだかアラが目立って一回目が嘘のようにイマイチに感じてしまった。“何回観ても楽しい”は大事なので0.5下げ(>人<)