劇場公開日 2009年10月24日

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「ラストはパニックムービーに変わる本作は、コメディ仕立てでロックファンでなくても楽しめました。」パイレーツ・ロック 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ラストはパニックムービーに変わる本作は、コメディ仕立てでロックファンでなくても楽しめました。

2009年11月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 予告編を見る限り、ミュージカルに近い音楽映画かと思っていたら、案外ストーリー性があり、喜劇要素を持った肩の凝らない作品です。ただ中盤の展開は、往時のヒットナンバーに沿って、ストーリーも構成されています。きっとオールディズやポップスファンにとって思わず音楽にあわせて感情移入してしまうシーンが続出することでしょう。

 海賊放送局の話だけに、取り締まるイギリス政府と丁々発止の駆け引きを期待していたのです。もちろん規制が始まっても、海千山千の連中だけにおいそれとは捕まりません。ただそういうやり合うシーンが少なくてもの足りませんでした。

 意外なのは、ラストのアクシデント。それはまるで『タイタニック』のようなパニックシーンになるのです。けれども、そのアクシデントによって、海賊放送局ラジオ・ロックがいかに多くの人に愛されたか、目に見える形のシーンが示されて、思わず感動しました。
 ロックン・ロールの魂は、み~~んな繋がっているぜぃ(^^ゞという一体感!そういう熱い思いが伝わってくるエンディングでした。クラッシックファンの小地蔵でも映画的にとても楽しめましたぁ!

 昔のヨーロッパでは、国営放送しか認めないという国が多く、そのため市民が勝手に人気のある・聴きたい番組をつくって流す海賊局が盛んであったのです。1960年から14年の間北海上からオランダに向けて放送を続けたラジオ・ベロニカが最初の海賊放送局でした。

 本作の舞台は1966年のイギリス。何とあのビートルズが世界を駆け巡り、大人気になった後ですら、イギリスは、ロックやビートのきいた音楽を制限していて、国民がBBC放送でポップスを聞けるのは、わずか1日45分だけだったのです。
 けれども制限されたり、厳しくされると反発するのが世の常というものです。法の網をくぐり抜け、公海沖に停泊した古い船上から、24時間ロック&ポピュラーを流す海賊放送が、イギリス国民を日々熱狂させていました。その名こそ『ラジオ・ロック』。缶詰会社の広告で運営されていて、聴取者は国民の1/4に匹敵する2500万人も達していたそうです。

 対する政府は、古い倫理観から『ラジオ・ロック』を屁理屈のような法案をこじつけてでも海賊放送局を取り締まろうとしていました。でもなかなか根拠となる法律が出てこず、頭を痛めるところが愉快です。

 政府の規制という重圧を、ものとしない個性的なDJたち。そのとても開放的で、喜怒哀楽を素直に表現する自由な姿と連帯感、そして“音楽を聴くのは良いことだ!”というメッセージにきっと共感されることでしょう。

 『ラジオ・ロック』の主なスタッフを紹介すると、プロデューサーのスーツを唯一着たクエンティンが元締め存在感が素晴らしいのです。彼が時々、局の経営的な話をすることで、クルーのリアルティを引き立てていました。
 花形DJは、身体も態度もどでかいアメリカからやって来たザ・カウント(伯爵)。彼の前の花形DJで、アメリカから呼び戻されたイギリスで最も偉大と称されるギャヴィン。トップ同士ふたりは張り合う余り、あり得ないチキンレースで互いの度胸を比べ合うところが可笑しかったです。ギャヴィンのセクシーなDJには、なぜ人気か納得しました。 デブなのになぜかモテモテなディブ。皮肉たっぷりなDJは面白いけど、人の彼女まで速攻でベットインしちゃうのはやり過ぎだぁ!
 いつも嫌われ者と自虐ネタを得意とする変わり者DJアンガス。ギャヴィン目当てで接近してきたファンの女の子と電撃結婚し、船上結婚式を挙げるものの、わずか17時間で彼女の真意を知って離婚する、お人好しDJサイモン。彼の結婚・離婚は生中継され、イギリス中のさらし者になってしまいます。彼にはいたく同情しました。
 さらに言葉を発作しなくても、女性を虜にしてしまう不思議なDJマーク。そのテクは、本編を見れば納得されるでしょう。
 通称「夜明けの散歩者」。早朝を担当し、クルーとメンバーにも忘れられていた存在のボブ。彼には、チョットした秘密が隠されていました。
 その他にお天気やニュース担当のニュース・ジョン、心温かいサウンド・エンジニアのハロルド、紅一点ながらレズの料理人フェリシティ(『ラジオ・ロック』は週一日のセックスデイを除き、女人禁制のストイックさが意外)。などバラエティーにとんだ人々が必死になって海賊放送を続けていたのです。

 政府と対峙するストーリーと同時並行して、たばことドラッグで高校退学になったカールが名付け親のクエンティンの招きで乗船。ディブの手ほどきで初体験も済ませるなど人生の活路を見いだしていくストーリーがもう一つの話になっています。
 それにしても更正を目指すのには、その船は余りに不似合いな環境。でもそれは意味があったのです。母親だけで育ったカールは、クルーのなかに自分の父親がいることを知らされます。瞼の父とは?ここの対面シーンは、もう少し盛り上げて欲しかったですね。
 ストーリーは、カール目線で進むので、同年代の方にもきっと共感出来ることでしょう。

流山の小地蔵