インビクタス 負けざる者たち : インタビュー
アカデミー賞作品賞を受賞した「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」の名コンビ、クリント・イーストウッド監督とモーガン・フリーマンが三たびタッグを組んだ「インビクタス/負けざる者たち」が、2月5日にいよいよ日本公開を迎える。実話を基に、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領と同国代表ラグビーチームの白人キャプテンが、アパルトヘイトによる人種差別や経済格差を乗り越え、ワールドカップ制覇を成し遂げるまでの軌跡を描いた本作について、イーストウッド監督とフリーマンに話を聞いた。(取材・文:猿渡由紀)
クリント・イーストウッド監督インタビュー
「ネルソン・マンデラは人を許すことに価値を見出したんだ」
――「インビクタス/負けざる者たち」は、ネルソン・マンデラを描くものです。マンデラという人物の、どんなところに惹かれましたか?
「彼は27年間も刑務所で暮らしたのに、自分をそんな目に遭わせた人々を許しただけでなく、刑務所の看守たちを大統領就任式に招待までしたんだよ。そんなことができる性格の人間は、非常に少ないと思う。出所したとたんに戦争でも始めてやろうと思うほうが人間の本性に近いだろう。だが、彼はそうしなかった。そうではなく、許すことに価値を見いだした。そして、アパルトヘイトへのボイコットのせいで、もう何年も国際試合に出場していない、このラグビーチームに目を付けたんだ。彼は、自分がバルセロナ・オリンピックに行った時に、そこにいた人々が、観戦の影響で、家に帰ってからも一生懸命働こうというやる気とエネルギーを得ていた様子を目撃していたのでね。そんなアイデアを考え出すほど、マンデラはクリエイティブでもあったんだ」
――事実を映画にするのは、フィクションよりも難しいものですか?
「もちろんだ。フィクションは、好きなようにできる。事実に基づく場合、実際に起こったことに忠実にする責任があるから、勝手に考えたものを2、3個混ぜ込んでやろう、なんていうことはできない。ただ、時に真実はフィクションよりも奇妙なものだよ。このストーリーは、まさにそれを証明する。これがフィクションだったら、観客は『そりゃあ映画だから、勝つはずのないチームが最後には勝つんだよね』と思うだろう。だけど、本当にそれは起こったんだよ」
――この作品は、あなたにとって記念すべき30本目の監督作品です。そのせいで、特別な思い入れはありますか?
「いや、ないよ。もちろんこの映画自体への思い入れはあるけれど、それは数字とは何の関係もない」
――30本目ということはわかっていましたか?
「誰かがそう教えてくれたよ。自分では全然知らなかった。数えることなんてないからね。ただ、時に振り返って、『僕はまだ仕事をしているんだな。どういうことだ!』と思うことはある(笑)。きょうも、映画俳優組合の新しい会員証が郵便で届いたので、見てみたら、“1954年入会”とあるじゃないか。もうそんなに長いことやってきたのか、と思ったよ。『そろそろ引退すべきかな』とも(笑)」
――そうは言いつつも、今もまた次回作を撮影されていますよね?あなたはなぜ、映画を作り続けるのですか?
「ずいぶん長いことやってきたし、これは僕がやることなんだよ。それに、自分が楽しいと感じる仕事をやらせてもらえるのはとても幸運なことだと、僕はいつも感じてきた。世の中には、そんなチャンスをもらえない人がたくさんいる。ラッキーにも、僕はその機会を与えられたのだから、ずっと続けるだけさ」