劇場公開日 1976年9月18日

「善良な一般市民と(善良であるべき)政治家。悪を退治するのはどちらか。」タクシードライバー ふみくんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5善良な一般市民と(善良であるべき)政治家。悪を退治するのはどちらか。

2023年10月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

興奮

難しい

主人公トラヴィスは、夜の生活を営み、危険な場所でもどこでも行く深夜営業のタクシードライバー。そうした底辺の生活を送る人間がもつ、世の中を綺麗にして欲しいという要望に対して、政治家は首をかしげ、難しいとだけ言う。政治家は演説ではきれいごとを言い、その支持母体の人間であるべツィの方も底辺の人間である主人公のことを理解してはくれない。トラヴィスは反感を覚え、この腐敗に満ちた世界をべツィもろとも破壊したい欲求に駆られ、銃をも手にするようになる。しかし、べツィへの暴力も、政治家の暗殺も失敗に終わる。
他方で、トラヴィスは自らの手で、本当の悪、世界を汚す存在へと立ち向かい、「浄化」を実践するのである。(そのきっかけとなったのは、たまたま夜のコンビニで「黒い」人間を撃ち殺したシーンにある。コンビニの店長はトラヴィスに礼を言い、市民は暴力を望んでいることが明らかとなる。)トラヴィスは売春宿の男たちを撃ち殺し、英雄になる。暴力は、正義を行使する手段でもあったのだ。アイリスの両親も、英雄トラヴィスへ感謝の言葉を寄せる。
ところどころ色んなものへ陶酔する危うさを持ち、女性であれ何であれ美しいものを付け回すオタク気質の主人公ではあったが、彼を英雄的行為へと駆り立てたものは何だったのか。最後のシーンでは、生活は以前と変わり無いものの、主人公の眼には充実感と自信とが溢れている。べツィも、現実社会の負の側面に夢砕かれたのだろうか、序盤と終盤とでは表情ががらりと変わり、終盤では哀愁漂わせる非力な女性へと変化している。
トラヴィスの二度目の恋のチャンスはうまく行くのだろうか。

閉塞感の漂う世界観に息が詰まる部分が多いけれども、一般的なアメリカン・ニューシネマや戦後フランス(というか、ニューシネマのモチーフはほとんど戦後フランスにある!)の作品とは少し趣向を変えており、おぼろげながらも未来へと前進しようとしている。人々はどこへ向かおうとしているのか、「ゆくへもしらぬ」(『新古今集』)未来だが、梶はしっかりと握っているようだ。
(2019/11/03)

ふみくん