劇場公開日 1969年9月13日

薔薇の葬列のレビュー・感想・評価

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5.0ピーターの美しさ

2020年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ピーターの美しさに見惚れてしまう。こんなに妖艶な人物がいるのかと驚く。新宿のゲイバーで働くエディ(ピーターが演じている)と唐突にスクリーンにデビューしたピーターがアヴァンギャルドな演出の中で虚実がないまぜになっていく。インタビュー映像を挟んだり、当時の文化人たちが本人の役で出演したりなど、虚構と現実を意図的に混濁させる手法で観客の中にある虚実の壁を破壊してゆく。当時の狂乱的かつ退廃的な文化を覗き見る点でも面白い。
ゲイバーで働く人物を描いたことに、監督は「男と女の境界にたっているような人々だから」と答えているのだが、「境界」という言葉はこの映画のキーワードではないかと思う。性別の境界、虚実の境界、善悪の境界などなど。境界の上に立ってみてはじめて見えるものがある、混沌としていて、この映画が描くものははっきりしないが、映画の中には「確固たる曖昧さ」が確かにある。曖昧模糊としていないとこぼれ落ちてしまうものをこの映画はたしかにすくい上げている気がする。

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杉本穂高

3.060年代最後の時を象徴する前衛映画の真面目さと可笑しさ

2021年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

特異な映画文体の前衛映画。予備知識なしの鑑賞だった為、劇映画とドキュメンタリー映画を混合させた制作スタイルに戸惑いながらも、それなりに楽しめた。内容は、あるゲイボーイの少年を主人公に、その宿命的な半生と60年代最後の時代を対比している。それを真正面から社会批判する真面目さは、他愛ないと視れる軽い風刺の演出タッチで味付けしているため、先鋭的ではない。イタリアのピエル・パオロ・パゾリーニ監督の「アポロンの地獄」のポスターが暗示として劇中に出てくる。確かにパゾリーニの影響を受けたストーリー展開の印象は受けた。時代と共に映画も個性と自由を希求し、様々な表現があったのだろう。
しかし、映画の内容とは全く関連性がない有名人たちが唐突に無邪気に現れるのには戸惑った。この大胆さは、あの淀川長治さんがテレビの日曜洋画劇場の解説よろしく、作品批評するカットのインサートまでに至る。これがドラマの主人公ピーターやゲイボーイのマダムとホステスの個人的なアイデンティティーを告白するインタビュー部分と並行して編集されている。その可笑しさと真摯さのコントラストがとてもユニークである。
既存の枠に収まらない、ある意味変ちくりんなセミドキュメンタリーの野心作だった。

  1979年 5月7日  三百人劇場

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Gustav