劇場公開日 1961年10月

「沈黙は、雄弁と語り」夜と霧 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0沈黙は、雄弁と語り

2011年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

ポーランド・アウシュヴィッツ強制収容所。そこで行われた出来事、真相を、写真資料と、撮影当時に映し出した映像を結び合わせて描き出す、「二十四時間の情事」で知られるアラン・レネ監督の代表作。

「戦争は、おぞましくも悲しい」この明解な結末に辿りつくまで、膨大な資料と、無駄の無いナレーションを積み重ね、観客を連れて行く。言葉が全てを主張し、電子世界を支配する現代にあっては息苦しさを覚える本作の世界。ただ、そこには証拠をひたすらに並べて私達を納得させていく法廷のような強制力は持ち込まれず、作家、そして観客の想像力を駆使して真相へと導く、映画作品ならではの意欲と挑戦がある。

本作品の中に、興味深い場面がある。囚人達の多くがその儚い命を散らしたガス棟を映しこんだ映像において、天井に無数に刻まれた爪あとを粘着に、沈黙を持って見つめる場面がある。再現シーンを持って描けば事足りる場面を、なぜ沈黙で答えるか。そこには、観客自身に想像して欲しい、感じて欲しいと切に願う、作家の願いがある。体中を黒い闇が覆い、呼吸が弱くなる。それでも、生きたい。この世にすがりたい。その一心で囚人達は天井によじ登り、手を真っ赤にして爪を突きたてた。そこまで感じなければ、思わなければ、この作品を産み落とした意味は無い。作家の挑戦と願いが、この一場面に集約されている。

「戦争は、いけない」この明確な結末に辿りつくまで、30分の冷徹な視線は観客を挑発し続ける。頭が痛い。目を背けたい。それでも、人が人を苦しめていく歴史を繰り返す人間としてこの先も、生きていくならば、この作品を一回、見ておいて欲しい。そして、想像して欲しい。どこまで、暴力は、卑劣な欲望は、人を変えていくのか。

ダックス奮闘{ふんとう}