パンチドランク・ラブ : インタビュー
ポール・トーマス・アンダーソン監督インタビュー
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バリーは孤独な男だ。ある夜、テレフォンSEXで寂しさを紛らすが、それをネタにゆすられる。
「あれは実在する詐欺のテクニックだよ。テレフォンSEXのお姉ちゃんが教えてくれた(笑)」
バリーは飛行機のマイレージが500マイルもらえるプリンのキャンペーンに目をつけ、スーパーで1万個もプリンを買い占める。
「あれも本当の話だ。1万2000個もプリンを買って125万マイルもマイレージを稼いだ土木技師のことを書いた記事を『タイム』誌で読んだ。もちろん彼にネタの使用料は払ったよ」
マイレージを稼いでも行きたい旅行先もなければ、一緒に行く相手もない孤独なバリーは時たま暴力を爆発させる困った男。ところがある日、不思議な女性リナ(エミリー・ワトソン)に恋をする。彼のときめきを象徴するように画面には時おり青い光がきらめく。
「あの青いフレア(光や感情の閃き)は合成じゃなくて撮影の時点で入れた」
青は「パンチドランク・ラブ」のキー・カラーだ。
「バリーが着るブルーのスーツは『バンドワゴン』(53)でフレッド・アステアが着てた服にヒントを得て作った。あの頃のハリウッド製ミュージカルみたいなムードを出したかったから画面の色もテクニカラー独特の色合いに近づくよう工夫した」
PTAはさらにジェレミー・ブレイクによるデジタル・ペインティングで滲んだ虹のような効果を加え、「パンチドランク・ラブ」を白昼夢のような映像に仕上げている。
バリーは愛する女性を得て、暴力の使い道を知り、「ゆすり屋」どもを一瞬で撃退する。その前に「ヒー・ニーズ・ミー」という歌が流れるが、これはロバート・アルトマン監督の映画「ポパイ」(80)でシェリー・デュバル扮するオリーブが歌ったもの。てことは、バリーがポパイになったって意味?
「なるほど『ポパイ』だね。言われて気づいた。実は僕、『ポパイ』観てなくてサントラだけ持ってるんだ。アルトマンは大好きな監督なんだけど」
ところで「パンチドランク・ラブ」でひとつだけ解せなのは、バリーみたいな鬱屈した暴力男のどこにヒロインは惚れたのかってこと。
「逆に訊くけど、あなたの奥さんはあんたみたいな男のどこに惚れたの?」
それはいまだに謎ですな。
「でしょ? 恋なんてパンチドランクみたいなものなのさ」