劇場公開日 2021年12月10日

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ダンサー・イン・ザ・ダーク : 特集

2000年12月20日更新

赤尾美香

「こんな顔でこんな身体だけど、自分のことがとても好き」

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アイスランドという歴史の浅い国の、もっと歴史の浅い音楽シーンから衝撃的なデビューを果たしたシュガーキューブス時代から現在まで、ミュージシャンとしてのビョークは常に先鋭的な存在であり続けている。元来彼女には、神様からのギフトとしかいいようのない、ユニークでオリジナリティ溢れる“声”と“歌”という、素晴らしい資質がある。加えて、時代の空気をめいっぱい吸いこみながらも時代に迎合することなく自らのルーツを活かせるセンスがあり、はたまたレコーディングのたびに違った環境に身を置き新たなインスピレーションの源を探すことによって、自身の変化をも楽しむ冒険心やチャレンジ精神がある。これらは、「いつ何どきでも、私は私でしかありえないし、そんな自分が私は好きなのだ」という自信の裏づけがあってこそなせる技。レコード会社担当女史が微笑みながらで言う。「彼女、言うんですよ。『私ね、こんな顔でこんな身体だけど、自分のことがとても好きなのよ』って」。お世辞にも美女とは言えない。ナイズバディでもない。けれど、そんなのは取るに足らないこと。人生にはもっと大切なことがいっぱいあるよね、と拍手したくなってしまう。でも、こんな風にルックスのことを少しでも話題にするあたり、やっぱり女性だな、って親近感が沸いたりもするのだけど。

ともあれ、ビョークの自負は「私は、自分のことはすべて自分で決めてきた」こと。音楽はもちろん、今回の映画出演にしても、今後一切の映画には出演しないと公言していることも、すべて彼女の魂と信念に基づいている。そんな彼女が「ダンサー・イン・ザ・ダーク」においてセルマ役を得たことは、運命だったとしか思えない。一見頼りなげに見えて、その実、過酷な現実を真っ正面から受け止め、魂に導かれるまま突き進んで行くセルマ。彼女のとてつもない無垢が生み出す悲劇の中にさえも、私たちは命の尊さを思い、救いを見出だすことができるが、それは、ビョーク自身が抱くセルマへの尊敬、慈しみ、愛情……迷いのないあらゆる理解と肯定が、並々ならぬテンションと共に迫ってくるからだ。彼女は、表現者として全身全霊を込めて自分を音楽で表現してきたのと同じように、架空の物語上のセルマをもまた、全身全霊を込めて表現し切ってしまったと言わざるを得ない。

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「ダンサー・イン・ザ・ダーク」によってビョークに興味を抱いたなら、ぜひ彼女の音楽に耳を傾けて欲しい。ニューヨークでレコーディングを行なった最新作「ドメスティカ(仮)」は、2001年春の発表が予定されている。そして、機会があれば現在公開中のドキュメンタリー映画「ビョーク」も観て欲しい。ダイレクトに飛び込んで来る彼女の姿と言葉に圧倒されっぱなしの傑作だ。また音楽誌『ミュージック・マガジン1月号』に掲載された、小野島大氏による<ビョークという「作品」の完成形を観る>という記事も興味深い。ビョークによる映像(主にプロモーション・ビデオ・クリップ)へのこだわりを検証したもので、スパイク・ジョーンズ(“イッツ・オー・ソー・クワイエット”のビデオを監督)など映画ファンにお馴染みのクリエイター達も登場している。

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ビョーク Bjork

1965年11月21日アイスランド、レイキャビク生まれ。幼少時代から本格的に音楽の勉強をし、歌手や子役として活躍。いくつかのローカル・バンドを経て86年シュガーキューブス結成。88年デビュー作「ライフ・イズ・トゥー・グッド」発表。バンド解散後、93年よりソロ活動をスタート、「デビュー」「ポスト」「ホモジェニック」と名作を次々発表。私生活では、86年に出産した愛息SINDRI君の母(現在はシングル・マザー)である。

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