コラム:若林ゆり 舞台.com - 第57回

2017年7月4日更新

若林ゆり 舞台.com

第57回:選ばれし5人の「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」はかわいい超逸材!

心を揺さぶるミュージカルには何度となく出合ってきた。しかし、この作品の力強さは特別だ。「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」を初めて見たのは、2005年のロンドン。開幕して間もなく、「すごい!」という評判が駆けめぐっていたときだ。運良くチケットをゲットした私は、打ちのめされた! 踊りたいという衝動に突き動かされ、夢を抱き、成長する少年の姿に。彼を支える人々の姿に。

これは、スティーブン・ダルドリーが2000年に監督した映画「リトル・ダンサー」のミュージカル版。ダルドリーにとって映画監督デビュー作だが、もともと敏腕の舞台演出家である彼が自らミュージカル化、しかも音楽はエルトン・ジョンとくれば、ハズレるわけがない。ビリー役を演じる少年(私が見たときはリアム・ムーア)の圧倒的なダンスとかわいさに魅了されまくったのはもちろん、同時に驚かされたのがドラマのリアリティだ。そこにはミュージカルらしい華々しさなどは皆無。人間のリアルな感情に何度も胸を打たれた。地味で野暮ったい北イングランドの炭鉱町に漂うもの悲しさ、やるせなさ、怒りがダイレクトに伝わってくる演出にすっかりノックアウトされたのだった。これならミュージカル嫌いなタモリだって好きになるはず! この舞台は「ビリー・エリオット ミュージカルライブ~リトル・ダンサー」として映像化され、映画館での公開もされている。

前置きが長くなったが、そんな名作ミュージカルが、ついに日本人キャストで、日本に上陸! オリジナル版のスタッフを招き、ロンドンやブロードウェイなどと同じく大々的なレッスン式オーディションを敢行したのだ。

かくして1346人の応募者の中からビリー役として選ばれたのが、5人の小さな“明日のスター”である。なにしろ「スパイダーマン:ホームカミング」でスパイディを演じるトム・ホランドだって、ロンドン版のビリー役出身なのだから!

左から、加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、未来和樹、山城力
左から、加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、未来和樹、山城力

加藤航世(13歳)は4歳からバレエを習い、海外バレエ団でのレッスンやコンクール入賞経験も豊富な若きエリート・ダンサー。

木村咲哉(10歳)は最年少ながら身体能力が高く、体操やダンスでも個性を見せるがんばり屋。

前田晴翔(12歳)は長い間ニューヨークで暮らし、アポロシアターのヒップホップダンス・アマチュアナイトの子ども部門で年間チャンピオンに輝いた美少年。

未来和樹(14歳)は熊本で生まれ育ち、オーディションで上京中に故郷が震災に見舞われてしまったが、「故郷を励ますことができれば」と夢を追った九州男児。

山城力(11歳)は、昨年末のビリー役合格発表では名前を呼ばれなかった。だがビリーへの思い入れが人一倍強く、スタッフが「今後の成長次第ではできる可能性がある」と判断。4人のビリーたちと一緒にレッスンを積み、あとから合格したドリーム・ボーイだ。

5人のビリーたちに話を聞いてみよう。まず、オーディションを受けようと思ったきっかけは?

加藤「僕はもともとバレエやっていたんですけど、舞台のDVDを見たら、ビリーと自分が似てるところがあると思って。ビリーができたら面白そうだなと思って応募しました」

木村「僕は、一緒にダンスを習っているお兄ちゃんが受けることになっていて、ダンスの先生とお母さんが僕にも『受けてみたら』って言ってくれたから、やろうと思いました」

前田「僕もオーディションの話を聞いてDVDを見たら、ビリーのちょっと乱暴なところとかが僕に似てるかなと思って。僕は7年間くらいヒップホップ・ダンスをやっていたんですけど、バレエは女がやるものだと思っていて(笑)。『どんな感じなんだろう?』っていろいろ興味がわいたので、受けようと思いました」

未来「作品の中でビリーが、踊っているとどんな気持ちになるかということを歌っていて。違う自分になるような、自由な気分になって、体に電流が走るような気持ちになるみたいなことを言っているんですね。僕も歌ったり踊ったりしているとき、そういう気持ちになることがあるので、共感できるところがあるなぁと思ったのがきっかけです」

山城「僕はシンガポールに住んでいたときに初めてDVDを見て、全身に鳥肌が立つほど感動したんです。それで『ビリー』の大ファンになりました。そのときから『この作品が日本に来たらなぁ』なんて想像してたんですが、それから2カ月後くらいに、奇跡的に『日本でオーディションがある』という話を聞いて。両親を必死で説得して、1人で日本に帰ってきてオーディションを受けました」

稽古場で、「ソリダリティ」を披露する加藤航世、バレエ教師役の柚希礼音(左)、父親役の吉田鋼太郎(奥)
稽古場で、「ソリダリティ」を披露する加藤航世、バレエ教師役の柚希礼音(左)、父親役の吉田鋼太郎(奥)

これまで1年間レッスンを受けてきて、自分が成長したなと思うところは?

加藤「歌と演技です。気持ちよくできたと思えるときがあるから」

木村「僕はバレエです。たとえばターンとかが、少しずつできるようになってきました。でも、舞台の傾斜に慣れないから、基礎をもっとがんばりたいです」

前田「僕もバレエ。最初は一切やったことなかったんです。オーディションのときもバレエシューズが何かよくわかってなくて、1人だけスニーカーでやってたんですよ。それが1年間レッスンして、初めはできなかったアラセゴン・ターンが、できるようになって。それが決まったときの達成感は、やってみないとわからないものだと思います」

未来「成長したのは、僕もバレエです。演技の面では、最初『形だけになる』と言われていたんです。それが最近、やっと相手の言葉を聞いて、そのときのビリーの気持ちになって自然に言葉が出せるようになってきたかな」

山城「成長できたのは、気持ち、かな。僕は以前、すぐに諦めていた人なので。でも、『ビリーになりたい』という気持ちが、この頃もどんどん増えているんです」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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