マルクス生誕200年、映画「マルクス・エンゲルス」ラウル・ペック監督に聞く
2018年5月5日 06:00

[映画.com ニュース]資本論で知られ、科学的社会主義を打ち立てたカール・マルクスが5月5日に生誕200年を迎える。マルクスとその盟友フリードリヒ・エンゲルスの若き日々を描いた映画「マルクス・エンゲルス」(公開中)のラウル・ペック監督が、作品を語った。
産業革命が社会構造のひずみから経済格差を生み出していた1840年代のヨーロッパ。貧困の嵐が吹き荒れ、不当な労働条件がはびこる社会にいらだちを覚えていた26歳のマルクスは独自の経済論を展開するが、その過激な言動により妻とともにドイツ政府から国を追われる。その後パリでエンゲルスと運命的に出会い、これまでになかった新しい労働運動を牽引していく。「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」という言葉で始まる「共産党宣言」誕生の夜明け前を、「私はあなたのニグロではない」のペック監督が描く。
偉大な人物ふたりを人間味のあるキャラクターとして描くために、大きなチャレンジが必要だった。「まず最初に、本作が西欧諸国でマルクスを主人公に描いた初の長編映画であったことが、その理由の一つです。この映画を、ハイチ出身の僕が手がけねばならなかったということは、ある意味皮肉です。しかし我々製作陣は、後にロシア革命に影響を与えたマルクスが、髭を生やしていた晩年を描くつもりは最初からありませんでした。2時間の映画では、それらを描くことは不可能です」
なぜ若い頃に焦点を当てたかというと、「マルクスがパリに移住した時のような反乱の年は、アイデアが進化する年でもあると思ったのです。 いかにそんな彼らのアイデアを通して観客を惹きつけていくかが挑戦でした」という。脚本家が執筆した内容の80%は、イェニー、マルクス、エンゲルス、そして彼らの友人たちによる手紙から膨らませて、構成していった。「それらの手紙には、彼らの日々の仕事、出会い、それから恋愛生活も記されていて、それはとてもリアルで、生き生きしていた。僕はそんな日常のことを描きたかったのです」

「偉人や歴史上の人物の伝記本はとても形式ばったり、キャラクターの感情や人との交流によって、ストーリーを展開させていきますが、本作ではそういう手法に頼っていません。それに、マルクス夫婦とエンゲルスとメアリー・バーンズの重要なキャラクターが目標に向けて一つになることはあるが、彼らはそれぞれゴールを持っていてお互いが共通の目標を持っているわけではないのです。型にはまらない製作手法が芸術的なチャレンジとなりました」
エンゲルスの事実婚相手メアリー・バーンズ(アイルランドの労働者)を通して、労働者階級の人間性を描いた理由については、「特権階級や富裕階級の会話をあまり含めないことが重要でした。マルクスは、ユダヤ教の指導者の歴史を持つ家庭に育ち、イェニーも高貴な家庭に育ち、彼女の異母兄弟はプロセインの内務大臣になっている。そしてエンゲルスの父親は、ドイツや英国に多くの工場を所有していた。彼らの家族はエリートや上流階級ばかりなので、本作で、あえて描くことはしたくなかった」と明かす。
さらに、メアリーを含めた労働者階級を描くことの重要性をこう説明する。「なぜならイデオロギーを掲げた知的な会話よりも、労働者階級の会話の方が、彼らの人生の一部であったからだ。彼らは自ら手を汚すこともあったし、特にエンゲルスはメアリーと交際することに、先入観みたいなものさえも持っていなかった。彼らの関係は真の友情や愛情です。裕福な家庭を捨て、究極の犠牲も払って、労働者のために活動し続けたのです。だから、犠牲を払わないアメリカのリベラルとは異なります。現在の若者たちは、人生はゲームや議論ではなく、自分たちが人生において何をすべきかということに気づいていると思います。マルクスとエンゲルスは、裕福だった彼らはその必要がなかったものの、人生を通して我々のために人生を捧げてくれたのです」
「マルクス・エンゲルス」は、岩波ホール他全国で公開中。
(C)AGAT FILMS & CIE - VELVET FILM - ROHFILM - ARTEMIS PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA – JOUROR – 2016
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