田中千禾夫 : ウィキペディア(Wikipedia)
田中 千禾夫(たなか ちかお、1905年(明治38年)10月10日 - 1995年(平成7年)11月29日)は、日本の劇作家、演出家、フランス文学者。日本芸術院会員。
経歴
長崎県長崎市生れ。旧制長崎県立長崎中学校を経て、1930年、慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。
在学中から獅子文六・岸田國士の「新劇研究所」に入る。卒論はフランスの劇作家、ポール・ジェラルディ日外アソシエーツ現代人物情報より。
1932年、岸田主宰の第1次『劇作』創刊に参加、実質的な編集長の任を務めた。1933年、処女戯曲『おふくろ』発表、築地座で上演されて注目される。1934年、やはり劇作家の田中澄江と結婚、神奈川県藤沢町鵠沼に新居を構える。同1934年から演出も始める。平成に入った晩年に師の『岸田國士全集』(岩波書店他の編集委員は矢代静一・古山高麗雄・中村真一郎で約3年かけ刊行、全28巻)編集委員となった。
1937年、文学座創設に参加するが、1944年に退団して、広島県に疎開、戦時中は筆を絶つ。
戦後活動再開、1947年実存的戯曲『雲の涯(はたて)』を執筆し、翌1948年8月1日、文学座による初演。 1951年に千田是也に請われて劇団俳優座演出部員となる。実存主義的作風の『教育』(初演1954年12月3日 - 16日、俳優座、岸輝子・東野英治郎ら)などで1954年度読売文学賞を受賞。劇作家でもある三島由紀夫は、1955年4月に『教育・笛』の書評で田中を、「岸田国士氏の仕事の、本当の意味での継承者」と述べた三島由紀夫「心理劇からの脱出――田中千禾夫氏の戯曲『教育・笛』」(読売新聞 1955年4月23日号)。。後に桐朋学園短期大学演劇科の教授を務めた。
長崎市への原子爆弾投下を扱った『マリアの首』(1959年)で岸田演劇賞および芸術選奨文部大臣賞受賞。1960年より白水社で『田中千禾夫戯曲全集』が刊行された。演劇評論では、1978年、『劇的文体論序説』で毎日出版文化賞受賞。
1980年(昭和55年)に日本芸術院賞・恩賜賞を受賞し、1981年(昭和56年)に日本芸術院会員。
妻とともにカトリック信徒で著名。新劇界の重鎮として、長く岸田国士戯曲賞の選考委員を務めたが、サルトル、カミュなどの名をギャグのタネにした鴻上尚史を忌み嫌い、その受賞を阻止し続け、田中が(没する直前に)辞任した事で、ようやく鴻上は(没年の)1995年に受賞した。
墓所はカトリック府中墓地。没後に、故郷長崎の浦上天主堂前に、澄江夫人筆の碑文が建立された。
趣味は「ぞうきん縫い」。
受賞歴
- 1955年(昭和30年) - 第6回読売文学賞「教育」
- 1959年(昭和34年) - 第6回岸田演劇賞「マリアの首」
- 1960年(昭和35年) - 第10回芸術選奨文部大臣賞「マリアの首」「千鳥」
- 1978年(昭和53年) - 第32回毎日出版文化賞「劇的文体論序説」
- 1980年(昭和55年) - 日本芸術院賞・恩賜賞『朝日新聞』1980年3月5日(東京本社発行)朝刊、22頁。
- 1982年(昭和57年) - 勲三等瑞宝章
著書
- 『新撰劇作叢書 第3 おふくろ 他三篇』(白水社 1935)
- 『おふくろ 他一編』(角川文庫 1955)
- 『雲の涯 他四篇 田中千禾夫戯曲集』(世界文學社〈劇作選書〉 1949)
- 『物言う術 俳優術第一歩』(世界文學社 1949、未來社 1954)、新訂版(白水社 1969、新版1978ほか)
- 『教育・笛』(河出書房〈河出新書〉 1955)
- 『田中千禾夫一幕劇集』(未來社 1955)
- 『海の星=ひとで』(宝文館ラジオ・ドラマ新書 1955)
- 『新劇辞典』(弘文堂〈アテネ文庫〉 1955)
- 『田中千禾夫戯曲全集』(全7巻、白水社 1960-1967)
- 『新劇鑑賞入門』(創元社・創元手帖文庫 1963)
- 『藤堂作右衛門の冒険』(講談社 1971)
- 『無駄と真実 随想集』(講談社 1972)
- 『八百屋お七牢日記』(新潮社 1972) 書下ろし新潮劇場
- 『鍵の下』(新潮社 1974) 書下ろし新潮劇場
- 『劇的文体論序説』(上下、白水社 1977-78)
- 『右往左往』(河出書房新社 1979)
共編著
- 『新劇手帖』(内村直也共編 創元社 1952)
- 『現代日本キリスト教文学全集10 母性と聖性』(教文館 1973)
- 『現代日本キリスト教文学全集15 自然と生活』(教文館 1973)
- 『現代キリスト教劇集』(聖文舎 1977)編著
- 『旅は道連れ』(澄江との共著 朝日新聞社 1982)
- 『貴族の階段』(原作武田泰淳 白水社 1984)
- 『夫婦で六十二年』(澄江との共著 講談社 1997)
伝記など
- 石澤秀二『祈りの懸け橋 評伝田中千禾夫』(白水社 2004)
- 田中澄江『夫の始末』(講談社 1995/講談社文庫 1998)。妻・澄江の自伝的連作集で女流文学賞・紫式部文学賞を受賞した
参考文献
外部リンク
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 | 最終更新:2024/09/19 06:57 UTC (変更履歴)
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