阿部知二 : ウィキペディア(Wikipedia)

阿部 知二(あべ ともじ、1903年(明治36年)6月26日 - 1973年(昭和48年)4月23日)は、日本の小説家上田正昭、津田秀夫、永原慶二、藤井松一、藤原彰、『コンサイス日本人名辞典 第5版』、株式会社三省堂、2009年 46頁。・英文学者・翻訳家。

人物

1903年(明治36年)6月26日、岡山県勝田郡湯郷村大字中山(現・美作市中山)に出生。父は阿部良平、母はもりよ。次男。中学教師であった父の赴任により、生後2ヶ月で島根県大社町に移り、さらに9歳のとき姫路市坊主町(ぼうずまち)に移る。旧制姫路中学(現・姫路西高校)を5年制のところを4年で修了し、旧制第八高等学校(現・名古屋大学)文科甲類(英文学科)、東京帝国大学(現・東京大学)英文学科を卒業。兄・公平の影響で文学に近づき、短歌を学んで島木赤彦に接し、またトルストイやチェーホフを愛読する。東京帝大時代にはじめての小説「化生」を大学の文芸部の雑誌『朱門』に発表し、その後、小説を中心に取り組む。1930年(昭和5年)、27歳で雑誌『新潮』に「日独対抗競技」を発表してデビュー。同年、「主知的文学論」を発表、また結婚する。『文学界』1936年(昭和11年)1月 - 10月に発表し同年12月に刊行された『冬の宿』が代表作となる。『日本評論』1938年(昭和13年)9月 - 1939年(昭和14年)8月に『風雪』を連載し同年9月に刊行。その後も小説や翻訳を発表し、明治大学教授として英文学を講じる。1941年(昭和16年)『白鯨』を初めて訳し、これが翻訳の代表作となる。

第二次世界大戦後、1950年(昭和25年)8月18日、北村喜八とともに第22回国際ペンクラブ大会に戦後始めて代表として出席。 1953年(昭和28年)8月、女子寄宿舎を描いた長編『人工庭園』を発表。1954年(昭和29年)2月、同名の作品集(大日本雄弁会講談社)を刊行。『人工庭園』は木下惠介監督よって『女の園』のタイトルで映画化され、同年3月に公開された。そして1954年度キネマ旬報ベストテンで2位を記録した。

翻訳も活発に行い、「世界文学全集」(河出書房新社)の編者として翻訳界の盟主の観があった。創元推理文庫(東京創元社)版シャーロック・ホームズシリーズ(1960年版 創元ホームズ)の最初の訳者としても知られる(ただし現行出版の創元推理文庫版ホームズは深町真理子訳版の「2010年新訳版 創元ホームズ」に差し替えられている)。『捕囚』の口述筆記中に、1973年(昭和48年)4月23日、東京都中央区築地の国立がんセンターにおいて、食道癌のため死去岩井寛『作家の臨終・墓碑事典』(東京堂出版、1997年)10頁。69歳。河出書房新社より『全集』全13巻が出された。

長男は阿部良雄(フランス文学者、東京大学名誉教授)、次男は阿部信雄(1948-、美術評論家・元ブリヂストン美術館学芸部長)、従兄は木村毅(作家)。

作品

小説

  • 『恋とアフリカ 短篇集』(新潮社、新興芸術派叢書) 1930
  • 『海の愛撫』(新潮社) 1930
  • 『冬の宿』(第一書房) 1936
    のち新潮文庫、角川文庫、岩波文庫
  • 『幸福』(河出書房、書きおろし長篇小説叢書) 1937
  • 『幻影』(版画荘) 1937
  • 『北京 長編』(第一書房) 1938
    のち角川文庫
  • 『微風』(創元社) 1939
  • 『光と影』(新潮社) 1939
  • 『街』(新潮社) 1939
    のち角川文庫
  • 『風雪』(創元社) 1939
    のち角川文庫
  • 『朝霧』(新潮社) 1940
    のち角川文庫
  • 『旅人』(創元社) 1941
  • 『たをやめ』(新潮社) 1941
  • 『孤愁』(利根書房) 1941
  • 『道』(新潮社) 1941
  • 『貴族』(文芸社) 1946
  • 『青葉』(山根書店) 1947
  • 『草原の午後』(洋々書房) 1947
  • 『大河』(新潮社) 1947
  • 『うつせみ』(洋々書房) 1947
  • 『わかもの』(高島屋出版部) 1947
  • 『死の花』(新文藝社) 1947
  • 『夜の人』(実業之日本社) 1948
  • 『緑衣』(山根書店) 1948
  • 『城 田舎からの手紙』(創元社) 1949
  • 『月光物語』(大丸出版社) 1949
  • 『新聞小僧』(講談社) 1949
  • 『黒い影』(細川書店) 1949
    のち新潮文庫
  • 『生きるために』(新潮社) 1950
  • 『砂丘』(中央公論社) 1950
  • 『小夜と夏世』(池田書店) 1951
  • 『漂泊』(創元社) 1951
  • 『阿部知二作品集』全5巻 (河出書房) 1952 - 1953
  • 『人工庭園』(大日本雄弁会講談社) 1954
  • 『朝の鏡』(朝日新聞社) 1954
  • 『沈黙の女』(東方社) 1954
  • 『花と鎖』(角川書店) 1954
  • 『兄と妹』(東方新書) 1955
  • 『河岸落日』(東方新書) 1956
  • 『青い森』(大日本雄弁会講談社) 1956
  • 『夜のなげき』(鱒書房、コバルト新書) 1956
  • 『雅歌』(宝文館) 1957
  • 『日月(じつげつ)の窓』(講談社) 1959
  • 『花を踏む』(東方社) 1960
  • 『白い塔』(岩波書店) 1963
  • 『捕囚』(河出書房新社) 1973
  • 『阿部知二全集』全13巻 (河出書房新社) 1974 - 1975
  • 『未刊行著作集 13』(白地社) 1996

評論

  • 『主知的文学論』(厚生閣書店、現代の藝術と批評叢書)1930
  • 『文学の考察』(紀伊国屋出版部) 1934
  • メルヴィル』(研究社、英米文学評伝叢書)1934
  • 『バイロン』(研究社、英米文学評伝叢書)1937
  • 『文学論集』(河出書房) 1938
  • 『文学論』(河出書房、学生文庫) 1939
  • 『文学のこころ』(古今書院) 1941
  • 『火の島 ジャワ・バリ島の記』(創元社) 1944
    のち中公文庫 1992
  • 『抒情と表現』(養徳社) 1948
  • 『文学入門』(河出書房) 1951
  • 『ヨーロッパ紀行』(中央公論社) 1951
  • 『世界文学への道』(養徳社) 1951
  • 『現代の文学』(新潮社、一時間文庫)1954
  • 『我が胸は自由 ブロンテ姉妹の生涯と芸術』(朝日新聞社、朝日文化手帖) 1954
  • 『歴史のなかへ』(大月新書) 1955
  • 『小説の読み方』(至文堂) 1955
  • 『夜明けに進む女性』(大日本雄弁会講談社、ミリオン・ブックス)1956
  • 『ブロンテ姉妹』(研究社出版、新英米文学評伝叢書) 1957
  • 『女性・文学・人生』(彌生書房) 1958
  • 『現代知性全集2 阿部知二集』(日本書房) 1958
  • 『世界文学の流れ』(河出書房新社) 1963、改訂版1971、新版1989
  • 『良心的兵役拒否の思想』(岩波新書) 1969
  • 『求めるもの 変動する世界と知性の試練』(勁草書房) 1970
  • 『文学と人生』(日本書房) 1971

翻訳

  • 『ウオタ・ベビ / イワンの馬鹿』(キングスレ / トルストイ、改造社、世界大衆文学全集、1931
    「ウオタ・ベビ」はのち『水の子』(岩波少年文庫)
  • 『小説の構成』(イー・エム・フォースタ、研究社) 1932
  • 『批評』(アレグザンダ・ポウプ、研究社) 1933
  • 『獄中記』(オスカー・ワイルド、岩波文庫) 1935
  • 『緑の木蔭』(トマス・ハーデイ、岩波文庫) 1936
  • 『詩と恋愛』(シエリイ、第一書房) 1936
  • 『風に散りぬ』(マーガレツト・ミチエル、訳編、河出書房) 1938
  • 『新訳バイロン詩集』(バイロン、新潮社)1938
    のち新潮文庫
  • 『お気に召すまま』(シェイクスピア、岩波文庫) 1939
  • 『最後の清教徒』(ヂョージ・サンタヤーナ、鵜飼長寿共訳、河出書房) 1939 - 1941
  • 『農民 第2部』(レイモント、第一書房) 1939
  • 『少女シリヤ』(シッランパァ、中央公論社) 1940
  • 『白鯨 第1部 / リジイア』(ハーマン・メルヴィル / E.A.ポウ、河出書房、新世界文学全集01) 1941
  • 『英文学の主流』(エドマンド・ブランデン、尾上政次共訳、大阪教育図書) 1948
  • 『アーサー王物語』(広島図書、銀の鈴文庫) 1950
  • 『白鯨』第2 - 第3巻(メルヴイル、筑摩書房) 1950 - 1955
    のち岩波文庫
  • 『二都物語』(ディケンズ、筑摩書房、中学生全集) 1951
  • 『ロビンソン・クルーソー』(デフォー、岩波少年文庫) 1952
  • 『家族ロビンソン』(ウィース、講談社) 1952
  • 『南の夢』(リチャード・メイソン(Richard Mason)、胡桃正樹共訳、英宝社) 1952
  • 『ウィーンの子ら』(ロベルト・ノイマン(Robert Neumann)、岩波新書) 1952
  • 『若く逝きしもの』(Nuorena nukkunut、シランパア、筑摩書房) 1953
  • 『憩いなき日々 若き女性の自画像』(リロ・リンケ(Lilo Linke)、安田たきゑ共訳、和光社) 1953
  • 『シェイクスピア物語 / 幸福の王子』(ラム / オスカー・ワイルド、創元社、世界少年少女文学全集) 1954
  • 『偉大なる道 朱徳の生涯とその時代』(スメドレー、岩波書店) 1955
    のち岩波文庫
  • 『荒野の呼び声』(ジャック・ロンドン、創元社、世界少年少女文学全集) 1955
  • 『ジェイン・エア』(シャーロット・ブロンテ、講談社) 1955
  • 『あたりまえの女たち 世界の母親の記録』(モニカ・フェルトン(Monica Felton)、岩波新書) 1957
  • 『銀星号事件』(コナン・ドイル、麦書房) 1958
  • 『シャーロック・ホームズの生還 / ホームズの最後のあいさつ』(ドイル、河出書房新社、世界文学全集) 1958
    のち創元推理文庫
  • 『解放の囚人 中国革命にまきこまれたアメリカ人夫婦』(上・下)(アリン&アディール・リケット(W. Allyn & Adele Rickett)、岩波新書) 1958
  • 『宝島』(スチーブンソン、講談社、少年少女世界文学全集) 1959
     のち岩波文庫
  • 『トム・ソーヤーの冒険』(マーク・トウェイン、講談社、少年少女世界文学全集) 1959
  • 『緋色の研究 / 四人の署名 / バスカヴィル家の犬 / 恐怖の谷』(ドイル、河出書房新社、世界文学全集) 1959
    のち角川文庫、創元推理文庫
  • 『空からきた女』(リチャード・メイソン(Richard Mason)、胡桃正樹共訳、英宝社) 1959
  • 『チベット』(上・下)(アラン・ウイニントン(Alan Winnington)、岩波新書) 1959
  • 『シャーロック・ホームズの冒険』(コナン・ドイル、創元推理文庫) 1960
  • 『回想のシャーロック・ホームズ』(コナン・ドイル、創元推理文庫) 1960
  • 『シャーロック・ホームズの生還』(コナン・ドイル、創元推理文庫) 1960
  • 『シャーロック・ホームズの最後のあいさつ』(コナン・ドイル、創元推理文庫) 1960
  • 『嵐が丘』(エミリ・ブロンテ、岩波文庫) 1960 - 1961
  • 『ジャングル・ブック』(キップリング、小学館) 1961
  • 『月と六ペンス』(モーム、河出書房新社、世界文学全集) 1961
    のち岩波文庫
  • 『寓話』(A Fable、フォークナー、岩波書店) 1961
    のち岩波文庫
  • 『文学と人間像』(プリーストリー、小野協一・大橋健三郎・野崎孝・皆河宗一共訳、筑摩書房、世界文学大系) 1962
  • 『覆面の騎士』(スコット、講談社) 1963
  • 『高慢と偏見』(ジェイン・オースティン、河出書房新社、世界文学全集) 1963
    のち河出文庫
  • 『トムおじの小屋』(ストー夫人、講談社、少年少女新世界文学全集) 1964
  • 『エマ』(オースティン、中央公論社、世界の文学) 1965
    のち中公文庫
  • 『子鹿物語』(ローリングス、講談社、少年少女新世界文学全集) 1965
  • 『シートン動物記』全5巻 (アーネスト・トンプソン・シートン、講談社) 1965
  • 『ウェルズSF傑作集1』(H・G・ウェルズ、創元推理文庫) 1965
  • 『ウェルズSF傑作集2』(H・G・ウェルズ、創元推理文庫) 1970
  • 『ラーマーヤナ』(ヴァールミーキ、河出書房新社、世界文学全集) 1966
  • 『世界史概観』(上・下)(A Short History of the World、H・G・ウェルズ、長谷部文雄共訳、岩波新書) 1966
  • 『死の商人ザハロフ』(ドナルド・マコーミック(Donald MacCormick)、筑摩書房、現代世界ノンフィクション全集) 1967
  • 『パリの家』(The House in Paris、エリザベス・ボウエン、阿部良雄共訳、集英社、世界文学全集・20世紀の文学) 1967
  • 『銀色のしぎ』(The Silver Curlew、エリナ・ファージョン、講談社) 1968
  • 『説きふせられて』(オースティン、河出書房、世界文学全集) 1968
  • 『金の足のベルタ』(エリナー・ファジョン、講談社) 1969
  • 『テス』(ハーディ、中央公論社、世界の文学) 1969
  • 『旧約聖書物語』(ウォルター・デ・ラ・メア、岩波書店) 1970
    のち岩波少年文庫
  • 『ヒロシマの花』(The Flowers of Hiroshima、、朝日新聞社) 1971

英文学の講義を行った大学

  • 明治大学
  • 東北大学
  • 文化学院
  • 同志社大学

その他の功績

兵庫県立姫路西高等学校(彼の母校、旧制姫路中学の新制下での学校)の校歌作詞を依頼され、「友にあたう」と題する校歌を作詞する。作曲は山田耕筰。1952年(昭和27年)。

1952年(昭和27年)の血のメーデー事件において、姫路中学の後輩・黒岩敏郎が被告人となり、彼の依頼を受けて特別弁護人として法廷に立った。

映画化作品

関連項目

  • 姫路文学館

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