水上と宮舘は、謎と怪奇が交錯し、先の読めない展開となる本作にどう挑んだのか。初共演ながら、現場で独特な信頼関係を築いたというふたりに話を聞いた。(取材・文/壬生智裕、撮影/間庭裕基)
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会信州のとある村に暮らす久喜雄司(水上)と夕里子(
山下美月)の夫婦のもとに、謎めいた日記が届く。それは雄司の祖父の兄で、太平洋戦争末期に戦死したとされる久喜貞市の遺品だった。日記には異様なほどの生への執着が記され、最後のページには「ヒクイドリ、クイタイ」という文字がつづられていた。その日を境に、墓石の損壊や祖父の失踪など、雄司と夕里子のまわりで不可解な出来事が起こり始める。2人は夕里子の大学時代の先輩で、怪異現象に造詣が深い北斗総一郎(宮舘)に、不可解な現象の解明を依頼する。しかし、存在しないはずの過去が現実を侵食していき、彼らはやがて驚愕の真相にたどり着くが……。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会●共演の印象は?
水上恒司は“ふざけたがり”?
宮舘涼太は“素の部分の人格”も魅力
――今回共演してみて、お互いの印象はどうでしたか?
水上:それはもちろんスーパースターですよ! つい最近、とある大御所の撮影スタッフの方から「役者はどれだけ芝居をしても素の部分が出るものだから。その素の部分をどれだけ豊かにできるかが大事なんだ」という話を聞いて、本当にその通りだなと思っていたところなんです。だてさん(=宮舘の愛称)が積み上げてきた“素の部分の人格”みたいなものを、本読みの段階から感じた部分もありました。
本当にその存在感は圧倒的。実際に共演してみて感じたのは、役者としての技術が素晴らしいというだけではなく、素の部分の人格が素晴らしいということ。これまでの経験で積み上げてこられたものが、にじみ出ている方なんだなと思いました。
宮舘:ありがとうございます。水上くんにお会いする前は、ストイックでお堅めな人なのかな、というイメージがあったんです。でも実際にお会いしてみると、すごく“ふざけたがり”な一面があって。
水上:いやいや、僕は真面目なんですけどね(笑)。
宮舘:もちろん真面目にふざけるというか。だからきっと何事にも真面目なんでしょうね。真面目にストイックに、周りの方を楽しませようとする方なんだろうなという印象があります。でも本人はそれを否定するんですけどね(笑)。
水上:そういうことにしておきましょう。
宮舘:間違ってたかな?……(笑) ただ撮影の現場では、主演としてスタッフの方とコミュニケーションをとったり、現場をまわすということを自然とやられていて。すごいなと思いましたし、コミュニケーションをたくさん取る方なんだなと思っていました。

――それは意識されてたんですか?
水上:やはりこういう仕事をしていると、浮世離れしていくのは簡単なので。コミュニケーションというのは本来、誰しもが大事にしないといけないのかなという当たり前のことだと思っています。特に今回は主演という立場でもあるわけですから。そういったことって大事だなと思うからこそ、そこを見てくださっているだてさんはさすがだなと思います。きっと普段からそういうことを意識しているからこそ、そこに気付いているんだなと思いました。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会●圧倒的な存在感の“クセ強キャラ”北斗総一郎を体現するために――
――宮舘さん演じる北斗は、相手の神経を逆なでするような癖の強いキャラクター。実際にいち観客としても、いい意味でイラッとしながら見ていたのですが。
宮舘:ありがとうございます。
――水上さんは、実際に北斗というキャラクターと対峙してみていかがでしたか?
水上:僕はイラッとするというよりも、笑ってましたね。「なんだ、そのウザさは」という感じで。そこで僕が素でイラっとしてしまうと、また違うことになっていくと思うので、そこは台本に書かれてあることに忠実に。とにかく「狂ってるなあ、うさんくさいなぁ」とずっと言い続けてました。
宮舘:ある種、洗脳していくというか。自分の世界に引き込んでいくという感じは意識しました。やはり自分の中で、その言葉に説得力を持って発することができないと、周りも取り込めないので。そこらへんは気をつけました。
あとは眉毛の動きですかね。以前、眉毛を動かしながら喋る人に会った時に「なんだかこの人、誰かを騙しそうな感じだな」と思ったことがあって。実際にその人が誰を騙していたというわけではないんですが、そういう要素があると、眉毛の動きひとつでも何かを企んでいるようにも感じられて。そこはヒントにしました。
水上:芸能界はそういう人間ばっかりですからね。
宮舘:やめなさいよ。そうじゃない人もいるから(笑)。


●
水上恒司の“受けの芝居”→野球ワードを交えた演技論に発展
――本作のプロデューサーは、この作品では水上さんに「受けの芝居」が要求されたと言っていました。ご自身ではどうだったんですか?
水上:役者として受けて立つような態度、姿勢は大事なんですけど、雄司はそういうことがないキャラクターなので。だからこそキャッチャーとしての質を変えていくという感じでしたね。
――となると、宮舘さんはどういったタイプのピッチャーだったんですか?
水上:だてさんは魔球を投げるタイプですね。こちらが逃げても、ボールがついてくるというか。「ガキの使いやあらへんで!!」で
月亭方正さんがパターゴルフをやった時に、カップに入らないような感じ(笑)。
宮舘:今のでいいんだね?
水上:大丈夫です。そういうボールを投げてくる方でしたね。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会――投げる側としてはどうなんですか?
宮舘:もう本当に直球。ストレートを狙う勢いで投げていました。
水上:ああ、そうだったんだ!
宮舘:でも雄司には刺さらなかったり。そういうタイミングがあるんですが、それでも投げ続ける。というイメージしてましたね。
――ふたりの噛み合ってない感じというのはそこから来ているんですね。
宮舘:でも5球に1球ぐらいはカーブで。狙って攻めたりみたいな時もありました。
水上:僕としてはサークルチェンジくらい投げてほしかったけど。
宮舘:これ、広げるの……(笑)?。
水上:でも直球を投げようとしたというのは意外でした。むしろ変化球をずっと投げていたのかと思っていたので。
宮舘:北斗の話って、嘘っぽいようで、本人にとっては本気なんですよね。ボールをよけるというのは本当にそうで。よけるというか、ボールが自分の元に来ないというのも本当に雄司のとらえ方なんだなと思います。ただ僕としては直球型、北斗だったら直球に投げて。それは夕里子に対してもそうだし、雄司に対してもそうだったのかなという印象でした。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会●完成作の感想は?
本木克英監督のタッグについても語る
――ところで完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
水上:やはり制作側の人間として、自分が関わった作品を面白いと思えることってなかなかないんです。どうしても自分のアラ探しをしてしまいますし、それはもちろんこの作品にもあります。でもこの作品はそれを超えていくようなものがあって。本木監督の編集力や画の力、光、音楽、役者の皆さんのお芝居もそうなんですけど、すごくしあわせでしたね。
宮舘:試写でもみんな笑顔じゃなかったですか?
水上:拍手してましたよね。試写が終わった時も、みんなが集まるスペースがあったんですけど、みんな笑顔だったんですよ。こんなハートフルな映画だったっけ? と。そういう気になるぐらい、満足感に満ち溢れていました。
――宮舘さんはSnow Manとしての映画出演はあると思うのですが、単独では初出演だったと聞いておりますが。そのあたりでどのような意気込みで向き合ったのでしょうか?
宮舘:僕としてははじめての体験になりますし、やはり成功させたいという意識はありました。でも気負いすぎても空回ってしまうなと思ったので、本当に役を演じることだけにフォーカスして、その場は楽しんでいましたね。だからあまり気負いすぎてはいないです。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会――本木監督とのやり取りで印象的だったことは?
水上:僕が受けた印象としては、頭の中に画ができあがっているということですね。無駄をなるべく省いていくような演出をされる監督。無駄を削って、撮りたいものに対してちゃんとこだわって撮っていく、時間もセッティングも含めてやっていく、ということを大事にされてるのかなと思って。だからその演出の意味が分かった瞬間というか、完成した映画を拝見した後の、納得度というのは非常に気持ちがいいものがありましたね。
宮舘:本木監督には言葉の説得力もありますし、不思議な方なんですよ。でもそんな不思議な人に「北斗は不思議な人だよ」と言われて、もっと不思議になるという(笑)。でも聞いたらちゃんと受け答えはしてくれるんですよ。だから北斗をやるにあたっては、タイミングだったり、言葉のチョイスだったり、ニュアンスだったりというのはその都度聞いてましたね。

●僕たちは仲が良くない――爆笑の掛け合いからにじみ出る“親密さ”
――おふたりは、現場で役づくりについてディスカッションはされたんですか?
宮舘:本当に話をしてないですよね。
水上:僕たち仲良くないんですから。
宮舘:今回はそういう感じでいくの(笑)?
――それはおふたりが対立する役だったからということではなく?
水上:僕はそういうことではなかったですね。
宮舘:どちらかというと話さなくてもいい雰囲気もありましたし。撮影の時は段取りでお芝居をやって。そこから本番まで(準備の)時間があるわけですが、本番前までしりとりをしてましたからね。
――仲いいですね。
宮舘:あ、ごめん。言っちゃった(笑)。
水上:いやいや、そんなことないですから(笑)。
宮舘:そうなんです。僕たち全然仲悪いですからね(笑)。