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なぜニュー・オーダー?「遠い山なみの光」石川慶監督が明かす使用楽曲秘話、戦争の記憶の話を語り継ぐ理由

2025年8月21日 16:30

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石川慶監督
石川慶監督

ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロのデビュー作を、広瀬すず主演で石川慶監督が映画化する「遠い山なみの光」が8月20日、日本外国特派員協会で上映され、石川監督が海外メディアからの質問に答えた。

日本人の母とイギリス人の父を持ち、大学を中退して作家を目指すニキ。彼女は、戦後長崎から渡英してきた母悦子の半生を綴りたいと考える。娘に乞われ、口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは30年前、戦後復興期の活気溢れる長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。初めて聞く母の話に心揺さぶられるニキ。しかし、彼女は悦子の語る物語に秘められた嘘に気付き始め、やがて思いがけない真実にたどり着く――という物語。

日本、イギリス、ポーランドの合作で、長崎時代の悦子を演じるのは広瀬すず、佐知子に二階堂ふみ、イギリス時代の悦子に吉田羊、ニキにはオーディションで選ばれたカミラ・アイコ、さらに長崎時代の悦子の夫に松下洸平、その父親を三浦友和。日本パートには柴田理恵渡辺大知鈴木碧桜(子役)らが出演。豪華実力派キャストが集結した。

画像3(C)2025 A Pale View of Hills Film Partners

まずは、世界的文学作家カズオ・イシグロ氏との仕事について問われた石川監督。「ここにカズオさんがいてくれたらと思うんですけど、最初はすごく緊張していたんですが、本当にチャーミングで気さくな方で、日本映画が大好きなんです。話をしていたらすぐ日本映画の話に脱線してしまうくらいで、こちらが“この人はノーベル賞作家なんだ”と言い聞かせながら話さないと忘れちゃうくらいの方でした」とイシグロ氏の人柄を明かし、「今回、映画を作るにあたっても前向きに『最初の小説なのでいろいろ間違いもあるけど、もし今(改めて)書けるとしたら、自分だったらこうする』といろんなアイデアをいただいて、最後のほうは緊張というのはなかったです」。イシグロ氏はカンヌ映画祭で本作を見たそうで「終わったときに『素晴らしかった』と固く握手していただいて、今でもその感触を覚えています」と振り返る。

本作製作にあたり、戦後を舞台とした映画から影響を受けたか尋ねられ「最初に(悦子の義理の父役の)緒方役の三浦(友和)さんとお話をしたときに、三浦さんが開口一番『僕に(東京物語の)笠智衆をやれってことじゃないよね』っておっしゃったんです。それくらいこの題材プラス長崎、原爆というのは重いトピックとしてあって、いま自分たちの世代が何をできるかということを考えると、すごく難しい映画ではあると思っています」と吐露し、「その中で小津(安二郎監督)、成瀬(巳喜男監督)の映画をもちろん参照しながらも、自分たちのストーリーテリングでこの時代のことを語っていきたいなと。そういう意味では昔の映画というよりも、資料を漁って当時の長崎がどれくらい復興していて、そのときの女性たちがどういう生き方をしていて、どういうファッションで、どういうものを食べていてというものに手がかりを求めようと、美術部スタッフ、キャストと話して作っていきました」と明かした。

さらに、三浦演じる緒方という役について「そもそも自分はイシグロ文学の大ファンでして、“日の名残り”がすごく好きなんですけど、カズオさんと話して興味深かったのは、このお話の中の緒方は、カズオさんも気に入っているキャラクターだったそうです。『十分に語り尽くせなかったので、このキャラクターは“日の名残り”のスティーブンスを延長して使ったんだ』とおっしゃっていて、自分が映画史上一番好きと言っても過言ではないくらいのキャラクターがこの小説にいるなら、ちゃんと扱わないとなとまず思いました」とイシグロ氏の思いも反映させた。

画像2

また、音楽に関する質問で、小説ではクラシックのメンデルスゾーンについて書かれているが、劇中ではイギリスの伝説的なロックバンド、ニュー・オーダーの楽曲を使った経緯について「第一にあったのが、今回若いスタッフの方と話したときに、80年代って彼らにとっては時代劇だって言われて(笑)。そうなると50年代に至っては室町時代みたいな感覚なんだろうなと思ったときに、そのままやるとまずいなと思って。そのときに思いついたのが80年って、ファッションも今に通じているし、ニュー・オーダーの音楽もたまに街中で聴くし、今の人たちに響く音楽だし、女性運動とか環境問題とかもこの時期にかなり大きく広がっていると考えると、娘のニキがキーポイントだなと。そこから広げて、あえて50年代の歴史的な写真にニュー・オーダーを乗せてみようかと思いました」と明かし、「最初は違和感があって不謹慎かなと思ったんですけど、白黒の戦後の焼け野原の長崎をアップデートするには、これくらい大きな決断が必要なのかなと思って、今回使いました」と力強く語った。

そして、ポーランド人の作曲家パヴェウ・ミキェティンの起用は「もともと自分がポーランドで映画を勉強してきたということもあって、普段からポーランドのカメラマンと一緒にすることがあるので、ナチュラルなチョイスではあったんですけど、今回、音楽を考えたときに日本の作曲家、イギリスの作曲家からリサーチしたんですけど、どっちを探してもどちらかに偏っちゃって、地球儀を眺めながらポーランドって真ん中あたりにあるなと思って(笑)」とちゃめっ気たっぷりに笑い、「音楽もすごくいいなと思って。イエジー・スコリモフスキ監督の『EO』もすごく好きだったので、知り合いから紹介してもらって連絡してみたら、すぐに「いいね」って返事が返ってきて、間のポーランドというのをポストプロダクションにすることによって全体がまとまる気がするなと。そういうプロセスでした」と経緯を説明した。

日本の観客、そして世界の観客に響くようどのように意識したかという問いには、「この映画は原爆、長崎というのが大きなテーマとして中心にありますけど、反核だけではなくジェンダー問題とかイミグレーションもあるし、戦後、おじいちゃんおばあちゃん世代が一生懸命戦って勝ち取ってきた日本の新しい価値についての映画だと自分は思っていて、そう思うと日本だけの問題じゃないし、なおかつ戦後、自分たちの親世代が勝ち取ってきた価値というのが今、危うくなっていると考えると、世界中いろんな人にしっかり響くと思うし、しっかり届けたいなという思いで映画を作りました」と言葉に力を込めた。

戦後80年というタイミングでの映画化となった。石川監督自身、かねてより原作への思い入れがあったが、原爆や戦争というトピックは、自身より上の世代の戦争を経験した人たちが作るべきと考えていた。しかし「今、戦後80年で、戦争を経験された方たちがどんどんいなくなっていくって考えたときに、自分たちのストーリーじゃないって逃げていたら、今までは記憶の話だったのに、これからは記録の話で歴史になっちゃうじゃないですか。でももっと小さな記憶の話として語り継ぐという意味でいうと、自分たちがやる必要があるなと思いました」と胸中を明かす。

「この話で自分が勇気づけられたのは、カズオさんが遠くイギリスから長崎のことをイメージしながら書かれて、しかも英語で書かれていて、この距離感というのは自分たちとこのトピックの距離感とすごく近いと感じましたし、語り口もすごく現代的であったので、オールドジェネレーションの方たちのやり方をそのままトレースするんじゃなくて、自分たちのやり方でこの時代を語れるんじゃないかなと思ったことが、今回映画化に踏み切った大きなモチベーションでした」と語った。

映画「遠い山なみの光」は9月5日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。


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