「遠い山なみの光」広瀬すず、吉田羊、石川慶監督が長崎を訪問 世界平和を祈る
2025年8月12日 16:00

ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に執筆した長編小説デビュー作を、石川慶監督が映画化した「遠い山なみの光」。このほど主演の広瀬すず、共演の吉田羊、石川監督が8月11日に長崎を訪問した。
日本・イギリス・ポーランドの3カ国合作による国際共同製作で、2025年・第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品。1950年代の長崎に暮らす主人公・悦子を広瀬、悦子が出会った謎多き女性・佐知子を二階堂ふみ、1980年代のイギリスで暮らす悦子を吉田羊、悦子の夫で傷痍軍人の二郎を松下洸平、二郎の父でかつて悦子が働いていた学校の校長である緒方を三浦友和が演じる。
1980年代、イギリス。日本人の母とイギリス人の父の間に生まれたニキは、大学を中退し作家を目指している。ある日、彼女は執筆のため、異父姉が亡くなって以来疎遠になっていた実家を訪れる。そこでは夫と長女を亡くした母・悦子がひとり暮らしていた。かつて長崎で原爆を経験した悦子は戦後イギリスに渡ったが、ニキは母の過去について聞いたことがない。悦子はニキと数日間を一緒に過ごすなかで、近頃よく見るという夢の内容を語りはじめる。それは悦子が1950年代の長崎で知り合った佐知子という女性と、その幼い娘の夢だった――という物語。

今回の長崎訪問では、3人はまず平和公園を訪れている。同公園は、1945年8月9日に長崎に投下された原子爆弾の落下中心地とその北側のエリアにあり、二度と戦争を繰り返さないという誓いと世界恒久平和への願いを込めて作られた。
あいにくの雨模様にも関わらず、平和公園には献花や平和の祈りを捧げる観光客の姿も多く見られた。主演の広瀬と吉田、石川監督は白い花束を手に現れると平和祈念像を前に深く一礼。像の前に設けられた献花台へとゆっくりと足を進めた。花を手向けた3人は、原爆犠牲者への哀悼の気持ちと世界平和を願って祈りを捧げるように静かに手を合わせた。

献花を終えた広瀬は「撮影では長崎に来ることができなかったので、ようやく訪れることができ、手を合わせることができたことを光栄に思います。映画を通じて改めて世界中の皆さんにこの場所で起きたことを知ってもらうきっかけになれば」と話す。吉田は「戦後80年の節目の年に平和祈念像に献花する機会をいただき、光栄に思います。原爆で亡くなられた多くの方を思い浮かべました。長崎が最後の被爆地であってほしいと強く願いたい」と語った。
準備期間の中でも何度も長崎を訪れたという石川監督。長崎が劇中でも重要な場所となっていることから「先日この場所で行われた平和祈念式典の直後でもあり、長崎の皆さんに映画をお披露目する前に献花に訪れることができたことはとても意味のあることではないかと思います」と話した。

その後、広瀬、吉田、石川監督は長崎市内にある活水女子大学内のチャペルに移動し、「映画 『遠い山なみの光』 原作朗読会」に参加。学生とともに登壇し、広瀬・吉田が日本語で、英文科の学生たちが英語でそれぞれ原作「遠い山なみの光」の一節を朗読。原作者カズオ・イシグロが、後世に語り継がれていくことを願って執筆した本作を題材に、未来を担う学生たちと交流し、朗読の後には学生たちから事前に集められた質問に答える「お悩み相談会」を実施し、人生の先輩としてアドバイスとエールを送った。
そして、TOHOシネマズ長崎に会場を移し、映画「遠い山なみの光」特別試写会舞台挨拶に登壇。長崎プレミア上映後、長崎の印象を聞かれ、「長崎に来たのが2回目」と話す広瀬は「前回はロケで地元出身の福山雅治さんに案内してもらう形でした。自分で街に出歩く機会がまだなく、今日は平和祈念像に献花したり、学生の皆さんと会わせてもらいました。撮影では長崎に来ることができなかったのですが、主人公・悦子がここで生きたんだなという目線で見たときにここにしかないものを肌で感じることができたと思います。“悦子”として見落としていたものがあるんじゃないかなと不安に感じるほどエネルギーあふれる街だと思いました」と撮影を思い返すように話した。

父が長崎出身という吉田は「幼い頃から年に一度は父の実家に足を運んでいました」と話すと客席からは驚きの声が上がった。車で家と実家の往復だったことから長崎の街をほとんど知らなかったという吉田は「昨日長崎入りして教会や貿易で栄えた街ならではの活気づいた雰囲気がある一方で、焦げ付いた建物がまだ残っているなど歴史と記憶が混在する唯一の街と感じました」と振り返る。小学生以来の平和記念公園訪問については「自分の体は大きくなったはずなのに、どこか像がもっと大きく見えた。戦後80年経っても世界の何処かで戦争や紛争が起こっていることに対する長崎の市民の皆さんの反戦の想いが込められていると感じました。改めて長崎を最後の被爆地にという決意を強く感じることができました」という。
撮影前に何度か訪れていたという石川監督は「2日前の式典も出席して、同じ像だが感じ方も変わりました」と話し、「色んな人の想いやここに悦子がいたんだなとしみじみ感じながら献花させてもらった」と振り返り「被爆80年ということで被爆された方の話を聞く機会が貴重でした。実際に会って話を聞いてみるのは文献などとは全く違う。今でも鮮明に覚えています」と振り返った。

1950年代の悦子を長崎弁のセリフで演じた広瀬は「男女や世代などで細かく変わる長崎弁のニュアンスをクランクイン前から試行錯誤していました。セリフの中にアドリブを織り交ぜるなど、普段だったらやっていることがなかなかできなかった。撮影中にアドリブが効かなくて現場が静まりかえることもありました(笑)」と続けると客席からは笑い声が上がった。苦労した長崎弁だったが「方言の壁を感じつつも、愛らしい音感なので肌なじみも良かったかなと思います」と笑顔を見せた。

会場には馬場長崎県副知事と鈴木長崎市長、映画製作をバックアップしてきた長崎観光連盟の明石さんも訪れた。鈴木市長は「70年ほど前の長崎や長崎市が誇る名誉市民でもあるカズオ・イシグロさんの作品を美しい映像と見事な演技で表現してもらい、ありがとうございました」とお礼を述べた。馬場副知事は「それぞれの方々が抱えるトラウマや葛藤、記憶に入り込んだようで夢中になった」と感想を話した。映像制作のサポートに携わっているという明石さんは「このような素晴らしい作品に少しでも携わることができたことを誇りに思う。映画が長崎を知ってもらい、訪れてもらうきっかけになれば」と期待を込めた。
「遠い山なみの光」は9月5日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
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