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「美しい夏」あらすじ・概要・評論まとめ ~若者の承認欲求、何者かになりたい心の弱みや生活苦につけこむ危険な影~【おすすめの注目映画】

2025年7月31日 09:30

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「美しい夏」
「美しい夏」
(C)2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!

本記事では、「美しい夏」(2025年8月1日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。


画像2(C)2023 Kino Produzioni, 9.99 Films
【「美しい夏」あらすじ・概要】

20世紀イタリア文学の巨匠チェザーレ・パベーゼが1940年に執筆した名作小説「美しい夏」を、イタリアの女性監督ラウラ・ルケッティが映画化。戦争の足音が迫るトリノを舞台に、年上の女性との出会いを通して少しずつ大人になっていく少女の姿をみずみずしく描き出した。

1938年。トリノの洋裁店でお針子として働く田舎町出身の16歳の少女ジーニアは、3歳上の美しく自由な女性アメーリアと運命的な出会いをする。ジーニアは画家のモデルとして生計を立てるアメーリアに誘われて芸術家たちが集う魅惑的な世界へと飛び込み、大人の階段をのぼっていく。思春期のジーニアと、すでに自立した女性としてたくましく生きるアメーリアは、互いの姿に自分の未来と過去を重ねながら、徐々にひかれ合っていく。

墓泥棒と失われた女神」「天空のからだ」などアリーチェ・ロルバケル監督作への出演で知られるイーレ・ビアネッロがジーニアを演じ、モニカ・ベルッチバンサン・カッセルの実娘でモデルとして活躍するディーバ・カッセルがアメーリア役で本格演技に初挑戦した。


【「美しい夏」評論】
●若者の承認欲求、何者かになりたい心の弱みや生活苦につけこむ危険な影(執筆:川口敦子
画像3(C)2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

 「しじゅう楽しいお祭り騒ぎが続いた」その頃、人生の“美しい夏”。16歳のヒロイン、ジーニアのその頃―大人への入り口を振り返るチェーザレ・パヴェーゼの中編小説を再読し「感情に訴える映画になる」と直感したと監督ラウラ・ルケッティは述懐する。ただしくっきりとしたプロットを欠く原作の映画化の難しさをも見て取った。プレス資料でそう語る監督はしかし、その難しさを逆手にとるようにしなやかに枝葉を延ばす闊達な脚色をものして、つんと鼻の奥を突くような懐かしさに満ちた快作を差し出している。

「もう子供じゃない」と背伸びの心をもて余しつつジーニアは、洋裁店のお針子として、共に田舎から出てきた兄と実直に日々を暮らしている。華美を排した装いで市電の窓辺に身を置く彼女は、空の高みに目をやり薄く微笑む。曇りないその顔、その姿に、はみ出すことに憧れながらはみ出せずにいる少女の心がふわりと感知される。

そんなひとりの前に現れるアメーリア。ピクニックの日、ボートからいきなり下着姿になって湖に飛び込むという原作にない鮮烈な登場の仕方でまさにしなやかな脚色の力を印象づける彼女を、ヴァンサン・カッセルモニカ・ベルッチの愛娘にしてトップモデル、その名も“ディーヴァ”・カッセルが体現する。そこにいる誰もの視線をくぎ付けにせずにはいない美貌と肢体。銀幕の大きさを存分に味方につけて誇らかに華やかに君臨する美神は、くしゃりと鼻にしわを寄せた笑顔でふっと脆さと不安、哀しさを垣間見せ、ジーニアの無垢に救いを見出しつつ、その無垢を傷つける世界への導き手を務めてもしまう。

画像4(C)2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

原作では彼女がモデルを務める画家たち、そのひとりへの恋心がジーニアをめぐる記述の芯ともなっていくけれど、映画は性急に大人への仲間入りをした体を横たえた彼女が、壁を這う黒い甲虫に手をやりうんざりと期待外れの時間を噛みしめる心の方をこそみつめ、アメーリアとの惹かれあう気持の切なさに焦点があわされていく。カッセルの天然の美を利した配役に対し「語らず語るのが好き」という監督の映画術を裏打ちする表情、瞳の色でものいうジーニア役イーレ・ヴィアネッロの映画的演技の力も見逃せない。その力があってこそ、都会の森で田舎の自然を想って枯葉に身を埋め浄めの儀式とするような彼女の姿を引きに引いた遠景にからめとる映画の沈黙の雄弁も活かされる。

画像5(C)2023 Kino Produzioni, 9.99 Films

原作に縛られない脚本の成果はヒロインの周りに配した面々の色づけ方、その雄弁さでも確認できる。とりわけジーニアの才を認めつつ厳しく見守り育てる洋裁店の女主人と勤労学生の兄。「女は知的じゃないとね」とぽつりともらす言葉に、エレガントに佇む今を闘い取った自負をしのばせる前者。そこでルケッティの映画がさらりと示すエンパワメントの質の好ましさ。

かたや傷心の妹が雪の季節を経て少しだけ春の兆しを見せた時、「(喫えるの)知ってるよ」とたばこを差し出す兄のやさしさ。その彼さえも取り込まれていそうな黒シャツの群れ―ファシズムのひたひたとした侵攻もルケッティはぬかりなくトリノの街のそこここに匂わせる。若者の承認欲求、何者かになりたい心の弱みや生活の苦しさにつけこむ危険な影。それを1938年トリノと地続きの、世界の(欧米の、日本の)今に見るような映画は静かに確かに警鐘を鳴らしてもいるだろう。

執筆者紹介

川口敦子 (かわぐち・あつこ)

映画評論家。著作に「映画の森―その魅惑の鬱蒼に分け入って」(芳賀書店)、訳書には「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」(キネマ旬報社)などがある。


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