【来日インタビュー】「入国審査」を舞台にした深層心理サスペンス 監督ふたりに聞いた衝撃の“実体験”とは?
2025年7月30日 19:00

撮影期間わずか17日間、製作費65万ドルという低予算で撮影された監督デビュー作でありながら、世界15カ国の映画祭で絶賛された「入国審査」は、海外旅行などの際に誰もが経験のある「入国審査」をテーマにした、予測不能な深層心理サスペンス。映画.comでは、初来日を果たしたアレハンドロ・ロハス監督、フアン・セバスチャン・バスケス監督にインタビューを敢行。物語のベースとなった、両監督が入国審査で味わった“実体験”、そこで入国者を待ち受ける審査官からの思わぬ“暴力”や“偏見”、緊張感を持続させる演出などについて、話を聞いた。(取材・文/編集部)
物語の中心となるのは、ニューヨークの空港で入国審査を待つ、スペインからやってきた幸せなカップル、ディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)。移住のビザも取得し、新天地で暮らす準備は万全だったはずが、説明もなく別室に連行され、密室での不可解な尋問が始まる。なぜふたりは止められたのか? 審査官は何かを知っているのか――? 予想外の質問が次々と浴びせられるなか、やがてある疑念が、ふたりの間に沸き起こる。


「実はアレハンドロのパートナーの方がダンサーで、ネタバレになってしまうので話せませんが、劇中の出来事と全く同じことが彼女に起きたそうなんです。自分たちや友人家族たちのさまざまなエピソードを入れていますが、世界中にこの映画を見せた時に、『自分も経験した』『自分にはもっと最悪なことが起きた』などの声が寄せられました。空港のこうしたホラー話は、たくさんあるんです」

「誰もが不安や恐怖心、ベネズエラ出身の僕たちは猶更ですが、そういった感情を抱えながら税関に向かいます。暴力の形というのは言葉でもあるし、心理学的でもあるし、プライベートに介入するものだと見せなければ、という意図をもって撮影していました。ですが、それは審査官たちの仕事なんです。僕たちからすると、どうやって尋問や審査のときに、相手を人間とも扱わないような態度がとれるのか、と思ってしまいますが……。彼らにとっては仕事に過ぎないですし、そのように対応する権利もあると思っているわけですから」

「また本作は、テンポが終始、変わらないんです。テンポが速くなったりゆっくりになったりすると、観客はその流れについていってしまって、ここまで緊張感を伝えられなかったかもしれません。ずっとふつふつ、お湯が沸いているような状態の映画だと、編集の段階で気付きました。エマニュエルさんがすごく美しい形で、命を吹き込んでくれたと思います。今回、カメラ2台で撮っていたんです。話す側だけではなく、リアクションする側の表情もとても重要でした。たくさんの映像のなかから、どこでカット割りをしていくのか。エマニュエルさんの力が大きかったですし、この独特のテンポにもつながっていきました」


「工事の音にはもう一層、意味があります。ディエゴは、工事の音でイラつき始めます。彼が唯一、本音を吐露しているシーンは、『長い間、国から離れている』と語るところなんです。実はその瞬間、工事の音が止まります。それはある意味、ディエゴは恐怖心のために本心を見せていないけれど、それを共有することで、ノイズは止まるんだよという、彼へのメッセージのつもりでした。音の編集の方も、僕らのやりたいことを理解してくれて、服のこすれる音などディテールにもこだわり、そういう“見えざるレイヤー”を作り込んでくれました」


「ブルーナさんはバルセロナの方で、(演じた)ダンサーであるエレナに、アーティストとして共感できたそうです。そして彼女は、自然な勢いをもっているんです。事前準備も万端で、全てのセリフを分析し尽くしています。ですが当日は、すごく自然で、僕たちの言葉にも敏感に反応してくれる、感受性の豊かな方でした。ふたりとも本当に素晴らしかったです。ふたりの力もあって、ずっと緊張感をキープできました」
「入国審査」は、8月1日に東京の新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

(C)2022 ZABRISKIE FILMS SL BASQUE FILM SERVICES SL SYGNATIA SL UPON ENTRY AIE
関連ニュース


なぜか入国できないカップル、「入国審査」を通して湧き上がる互いへの疑念…「Rotten Tomatoes」批評家スコア100%の注目作、予告完成
2025年6月5日 18:00


「BAD GENIUS バッド・ジーニアス」あらすじ・概要・評論まとめ ~リメイクで加わる多人種のスパイスで、改変された終盤がより複雑な味わいに~【おすすめの注目映画】
2025年7月17日 09:00


映画.com注目特集をチェック

てっぺんの向こうにあなたがいる
【ベスト“吉永小百合主演映画”の話をしよう】独断で選んだTOP5を発表! あなたの推しは何位!?
提供:キノフィルムズ

ワン・バトル・アフター・アナザー
【個人的・下半期で最も観たい映画を実際に観たら…】期待ぶち抜けの異常な面白さでとんでもなかった
提供:ワーナー・ブラザース映画

辛口批評サイト96%高評価!
【“大量殺戮”の容疑者は妻と4人の部下】前代未聞の心理戦を描く、超一級サスペンス
提供:パルコ

レッド・ツェッペリン ビカミング
【映画.com編集長が推したい一本】むしろ“最前列”で観るべき奇跡体験! この伝説を人生に刻め!
提供:ポニーキャニオン

この映画ヤバい、ヤバすぎる…
【酸素残量はわずか10分、生存確率0%…】極限状況・驚がくの実話を描いた超高評価作
提供:キノフィルムズ

めちゃくちゃ笑って、すっげぇ楽しかった超刺激作
【これめちゃくちゃ良かった】激チャラ大学生が襲いかかってきて、なぜか勝手に死んでいきます(涙)
提供:ライツキューブ

なんだこのかっこいい映画は…!
「ターミネーター2」「ジュラシック・パーク」「アバター」等は、このシリーズがなければ生まれなかった?
提供:ディズニー

宝島
【超異例の「宝島」現象】こんなにも早く、心の底から“観てほしい”と感じた映画は初めてかもしれない。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント