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【来日インタビュー】「入国審査」を舞台にした深層心理サスペンス 監督ふたりに聞いた衝撃の“実体験”とは?

2025年7月30日 19:00

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撮影期間わずか17日間、製作費65万ドルという低予算で撮影された監督デビュー作が高評価
撮影期間わずか17日間、製作費65万ドルという低予算で撮影された監督デビュー作が高評価
(C)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

撮影期間わずか17日間、製作費65万ドルという低予算で撮影された監督デビュー作でありながら、世界15カ国の映画祭で絶賛された「入国審査」は、海外旅行などの際に誰もが経験のある「入国審査」をテーマにした、予測不能な深層心理サスペンス。映画.comでは、初来日を果たしたアレハンドロ・ロハス監督、フアン・セバスチャン・バスケス監督にインタビューを敢行。物語のベースとなった、両監督が入国審査で味わった“実体験”、そこで入国者を待ち受ける審査官からの思わぬ“暴力”や“偏見”、緊張感を持続させる演出などについて、話を聞いた。(取材・文/編集部)

物語の中心となるのは、ニューヨークの空港で入国審査を待つ、スペインからやってきた幸せなカップル、ディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)。移住のビザも取得し、新天地で暮らす準備は万全だったはずが、説明もなく別室に連行され、密室での不可解な尋問が始まる。なぜふたりは止められたのか? 審査官は何かを知っているのか――? 予想外の質問が次々と浴びせられるなか、やがてある疑念が、ふたりの間に沸き起こる。


■監督ふたりの衝撃の“実体験”をもとにした物語 「映像化しても信じてもらえないよね」というエピソードも
画像2(C)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
――本作は、ロハス監督がベネズエラからスペインに移住された実体験をもとにしています。おふたりの間で、どのようなコミュニケーションが交わされ、映画の形へと膨らませていったのか、製作の過程を教えてください。
ロハス監督「ふたりともベネズエラ出身ということもあって、いわゆる国境関係の警備や税関を含む、権力をもった側への恐怖症があります。ベネズエラ出身だと、税関がスムーズに通れないんです。僕らのそういう経験を映画にできないか、というところから製作が始まり、カップルを主人公にして物語を考え始めました。劇中のふたりは、事前に全ての書類が承認を受けているんです。それにも関わらず止められて、二次審査室に連れて行かれてしまい、そこから物語が始まります」
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――脚本には、おふたりの実体験や知人の経験が反映されていると伺いました。脚本に強く影響を与えた、もしくはおふたりが衝撃を受けたエピソードがあれば、教えてください。
バスケス監督「ほとんど自分たちが経験したことが、映画のなかに入っています。友人家族のエピソードも含めると、『映像化しても信じてもらえないよね』ということもあって、そういう部分は実は使っていないんです。ですが、第二次トランプ政権になったいまは、カメラの前で、SNSの前で、何でも起こりうるということが明らかになっています。人前であれだけのことが起きていると考えると、空港の誰も見ていない密室のなかで何が起きているのか、想像できるかと思います」

「実はアレハンドロのパートナーの方がダンサーで、ネタバレになってしまうので話せませんが、劇中の出来事と全く同じことが彼女に起きたそうなんです。自分たちや友人家族たちのさまざまなエピソードを入れていますが、世界中にこの映画を見せた時に、『自分も経験した』『自分にはもっと最悪なことが起きた』などの声が寄せられました。空港のこうしたホラー話は、たくさんあるんです」


入国審査でのさまざまな“暴力”や“偏見”
アレハンドロ・ロハス監督
アレハンドロ・ロハス監督
(C)2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
――劇中では、初対面で全くの赤の他人である審査官に人生を査定されるかのような質問をされたり、過去の恋愛などプライベートを暴かれたり、無遠慮な荷物検査や身体検査が行われたりと、さまざまな“暴力”や“偏見”が描かれています。観客も最初は好奇心半分・恐怖心半分で覗き見している気分だったのが、自分が実際に尋問されているかのように感じ、精神的にダメージを食らい、カップルの恐怖と怒りに完全同期するような気分になっていきます。
ロハス監督「ご自身をそういう状況に置いて見てくださったことが嬉しいです。僕らも作り手として、観客にカップルとともにこの状況を経験してほしい、彼らの感情を味わってほしいと。本作は、言葉にされていない部分――『何が言及されていないか』についての映画でもあるので、そのあたりも感じとってほしいです。いろいろな要素を複雑に組み合わせている映画なので、僕らも簡単に答えることはできないんですが、税関を通ることは楽しい経験ではないですよね。その国の権力をもっている担当者たちが、入国者たちを『怪しい』と勝手に思っている場合、もっと状況は複雑になっていきます」

「誰もが不安や恐怖心、ベネズエラ出身の僕たちは猶更ですが、そういった感情を抱えながら税関に向かいます。暴力の形というのは言葉でもあるし、心理学的でもあるし、プライベートに介入するものだと見せなければ、という意図をもって撮影していました。ですが、それは審査官たちの仕事なんです。僕たちからすると、どうやって尋問や審査のときに、相手を人間とも扱わないような態度がとれるのか、と思ってしまいますが……。彼らにとっては仕事に過ぎないですし、そのように対応する権利もあると思っているわけですから」


入国審査の別室での密室劇 警察官からも「非常にリアルだ」といわれた、観客の緊張感を持続させるリズムと音
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――本作はほぼ全編、「入国審査の別室」という密室で展開する会話劇です。観客を最後まで没入させる演出上の工夫を教えてください。
ロハス監督「本作は、ト書きが少ない、セリフの多い脚本なんですが、初期段階から全てが最終稿のようなセリフでした。最後まで読まずにはいられないような脚本を作り、サスペンスのムードをキープすることができました。今回、エマニュエル・ティツィアーニさんという素晴らしい編集の方が参加していて、鋭く、感受性も豊かで、常に僕らに確認してくれるんです。それで、観客の気が散ってしまうようなカットは全て切ってくれました」

「また本作は、テンポが終始、変わらないんです。テンポが速くなったりゆっくりになったりすると、観客はその流れについていってしまって、ここまで緊張感を伝えられなかったかもしれません。ずっとふつふつ、お湯が沸いているような状態の映画だと、編集の段階で気付きました。エマニュエルさんがすごく美しい形で、命を吹き込んでくれたと思います。今回、カメラ2台で撮っていたんです。話す側だけではなく、リアクションする側の表情もとても重要でした。たくさんの映像のなかから、どこでカット割りをしていくのか。エマニュエルさんの力が大きかったですし、この独特のテンポにもつながっていきました」

フアン・セバスティアン・バスケス監督
フアン・セバスティアン・バスケス監督
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バスケス監督「僕らの実体験がもとになって生まれたテンポですね。実際の尋問も同じような感じですし、どれくらいリアルかというと、フランスで開催されたランス・ポラー国際推理映画祭で、普通の審査員ではない、5人の警察官からなる審査員グループから『非常にリアルだ』といわれたくらいです。脚本自体は警察官や審査官の方に見せたりはしていないのですが、リアルに作ることができたと思います」
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――ひとつ気付いたのは、「本作は音の映画である」ということでした。呼吸音、鼻を啜る音、段々と近付いてくる靴音と話し声、工事音など、音が何よりも雄弁に感情を伝えていると感じました。音楽を使用していないことも勇気のある決断だと思いましたが、音の演出に関してのこだわりを教えてください。
バスケス監督「おっしゃる通り、ロケーションも大事ですが、サウンドエフェクトがとても重要でした。よりリアルに状況を感じられるからです。カメラ自体もほとんど動きませんが、それは観客に、カップルのふたりとともにこの部屋にいる気持ちになってほしい、と思ったからです。『音楽を入れた方が、サスペンス感が出るんじゃない?』という方もいましたが、僕たちは音楽を入れたくなかったんです。観客の気が散ってほしくないし、集中しているのに目覚めてほしくないし、あの部屋から外に連れ出すようなことは一切したくなかったんです」

「工事の音にはもう一層、意味があります。ディエゴは、工事の音でイラつき始めます。彼が唯一、本音を吐露しているシーンは、『長い間、国から離れている』と語るところなんです。実はその瞬間、工事の音が止まります。それはある意味、ディエゴは恐怖心のために本心を見せていないけれど、それを共有することで、ノイズは止まるんだよという、彼へのメッセージのつもりでした。音の編集の方も、僕らのやりたいことを理解してくれて、服のこすれる音などディテールにもこだわり、そういう“見えざるレイヤー”を作り込んでくれました」


■キャラクターと通じるバックグラウンドを持っていた俳優陣 「アクセントが素晴らしかった」
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――キャストのアルベルト・アンマンさんはアルゼンチン出身でスペイン在住、ブルーナ・クッシさんはバルセロナ出身で、演じるキャラクターと通じるバックグラウンドを持っています。撮影のなかで素晴らしかった演技について、教えてください。
ロハス監督「アルベルトさんはアルゼンチン出身で、マドリードに移り住んで25年。ご自身の経験が反映されたキャラクターだと意識していらっしゃいましたし、似たような経験もおありでした。何が素晴らしいかというと、アクセントですね。もともとコロンビアやメキシコなど、スペイン語のさまざまなアクセントはやってきたけれど、ベネズエラのアクセントは初めてだったそうです。それだけではなく、“ベネズエラから離れて久しいベネズエラ人のスペイン語”を話していて。さらに、ベネズエラのアクセントがついた英語で話して、感情をこめた演技をするから、本当にすごいと思いました。こうした内省的なキャラクターは、これまでやったことがなかったそうです」

「ブルーナさんはバルセロナの方で、(演じた)ダンサーであるエレナに、アーティストとして共感できたそうです。そして彼女は、自然な勢いをもっているんです。事前準備も万端で、全てのセリフを分析し尽くしています。ですが当日は、すごく自然で、僕たちの言葉にも敏感に反応してくれる、感受性の豊かな方でした。ふたりとも本当に素晴らしかったです。ふたりの力もあって、ずっと緊張感をキープできました」

入国審査」は、8月1日に東京の新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

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