「ババンババンバンバンパイア」あらすじ・概要・評論まとめ ~素っ裸もいとわぬ吉沢亮の没入演技が「国宝」級~【おすすめの注目映画】
2025年7月3日 09:00

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「ババンババンバンバンパイア」(2025年7月4日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

秋田書店「別冊少年チャンピオン」連載の奥嶋ひろまさによる人気コミック「ババンババンバンバンパイア」を実写映画化。
銭湯に住み込みで働く美青年・森蘭丸。その正体は450歳のバンパイアで、現在は銭湯のひとり息子である15歳のピュアボーイ・立野李仁を狙っており、究極の味わいである「18歳童貞の血」を得られるようになるまで李仁の成長と純潔を見守る日々を送っている。ところがある日、李仁がクラスメイトの篠塚葵に一目ぼれしてしまう。李仁の恋が成就して純潔が失われるのを防ぐべく、決死の童貞喪失阻止作戦に乗りだす蘭丸だったが……。
銭湯で働く美しきバンパイア・蘭丸を吉沢亮、蘭丸が狙う天真爛漫な少年・李仁を板垣李光人、李仁の初恋相手・葵を原菜乃華、蘭丸に積年の恨みを抱える兄・森長可を眞栄田郷敦、若き日の蘭丸に寵愛を注いだ織田信長を堤真一が演じる。数々の人気CMを手がけ、「一度死んでみた」で長編映画監督デビューを果たした浜崎慎治がメガホンをとり、テレビドラマ「ごくせん」シリーズの松田裕子が脚本を担当。

2023年のキネマ旬報ベストテンで読者選出1位に輝いた「Gメン」(2023)をはじめ、「少年チャンピオン」発信のコミック原作映画が快調だ。当誌別冊でマンガが連載中の「ババンババンバンバンパイア」も、原作という素材を活かしながら、映画独自の調理をほどこし、今回の実写化を美味しく遂げている。
本作は老舗の銭湯に勤めるバンパイアを主人公にした、タイトルありきで全てを創造したと思われがちなラブコメだ。450歳のイケメン吸血鬼・森蘭丸(吉沢亮)は、銭湯の一人息子・李仁(板垣李光人)が18歳になるのを待ち、ここで世話になっている。彼に命を救われた恩もあるが、なにより18歳・童貞男子の血は、バンパイアにとって至高の味だからだ。ところがある日、李仁が可愛いクラスメイトの葵(原菜乃華)に一目惚れ。恋の成就=童貞喪失じゃないかと蘭丸は血相を変え、これは絶対に実らせてなるものかと妨害策を講じていく。

物語はそんな屈折した行動力をフル発揮する蘭丸に、吸血鬼オタク女子だった葵が目をハート型にし、あらぬ方向へと騒乱を極めていく。しかも蘭丸は“闇の長命種族”として、戦国時代にさかのぼる因縁を抱えており、それがいい湯加減の展開にハードな揺さぶりをかけるのだ。
「お風呂屋さんのバンパイア」というミスマッチな設定からして、本作は観客から笑いを奪う気まんまんだが、蘭丸に扮する吉沢亮のパフォーマンスが、けっこうな勢いでそれを強行していく。吸血鬼らしい伯爵チックなダンディズムを装っていても、冷静に見れば変人属性のかたまりだ。加えて、450歳なりに老成しているのか未熟なのか捉えどころのない、そんな麗しの怪キャラクターを吉沢は“我が意を得たり”とばかりに演じている。ギャグをまっとうするためならば素っ裸もいとわない、こうした役に対する実直な姿勢は、ベクトルが異なるだけで前主演作「国宝」(2025)と同じなのではなかろうか。

なにより映画そのものが、ミュージカルありオリジナル展開ありで、コミックともTVアニメ版(2025~)とも異なるルートをたどっており好印象だ。原作に従属的なアダプトを正義とするような現況で、マンガの実写化はもう少し自由でいいのでは? と感じる自分にとって、これぞ最適解ともいえる快編だった。原作との違いをあげつらって、やれリスペクトが足りないなどと批判するならば、原作だけ読んでいれば済むことだ。コミック映画にアートフィルムでも観るような構えも必要ない。片方200キロはあろうかという巨大なダンベルをポッキーみたいに持ち歩き、「李仁もやれ、筋トレは裏切らないからな」と何食わぬ顔でつぶやく関口メンディー(断っておくが、高校生の役だ)を見ているだけで、理屈を超えた多幸感で心が満たされる。
執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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