小栗旬主演「フロントライン」。“社会派実話映画”のヒットが日本で実現するのか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2025年6月13日 11:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末6月13日(金)から「フロントライン」が公開されます。
本作は2020年2月に日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」を舞台とした“社会派実話映画”です。
医者、患者、マスコミ、行政など様々な視点を組み合わせて、実話に基づいて「あの時に一体何が起こっていたのか?」を分かりやすく提示しています。
この「分かりやすく提示する」というのは簡単そうで意外とハードルが高いものなのです。

というのも、例えば「患者」という視点で見ても「ダイヤモンド・プリンセス」には乗員・乗客が約3700人もいて、誰に焦点を当てるのかを大幅に絞らないと複雑になっていきます。
さらに、何人かに絞って厳密に描こうとしても、意外と現実的な出来事は複雑で、そのまま描くと情報が増え続け、 無駄に分かりにくいとかもあるのです。
そこで、骨格を崩さないように、「2人の話を1人の話に簡略化」するなどのテクニックを駆使して分かりやすく全体像を提示するわけです。
この辺りの工夫は、かなり考察を考える重要な作業で、この工程を緻密にこなせる能力のある人は、そういないと思います。
本作ではそれが成功しているのは、企画・脚本・プロデュースを担当したのが増本淳だからでしょう。
というのも、増本淳はネットフリックスで配信された、福島第一原子力発電所の事故を描いたドラマ「THE DAYS」でも企画・脚本・プロデュースを担当。複雑に入り組む大事故を的確に簡略化して描くことに成功していたからです。
「フロントライン」「THE DAYS」は、どちらも完成度が非常に高いと思います。
そして、エンタメ的にも面白い作品だと言えるでしょう。
それには独特な背景があるのです。

この2作品に共通するのは「常識と異なる内容」。これが「面白さ」の根源にあるのです。
では、なぜ「常識と異なる内容」になっているのでしょうか?
それは「専門性」というのが大きな要因にあります。
例えば原子力発電所の事故であれば電力や医療といった専門的な知識が無いと理解しにくいですし、新型コロナウイルスも同様です。
そして、多くの人は専門性を持ち合わせていないので、自然と「誤解」を持って理解したりするのです。
さらに言えば、どちらも、誰も経験したことが無いような事案でもあったわけです。
その結果、未知の状況に対してリアルタイムで判断が求められ、メディアも含めて勘違いが頻発するような構造になっていたのです。
特にメディアは、基本的に「不安をあおることに必死なポジション」なので、形成される常識が、かなり実態と異なるようになるわけです。
そのため、本作のように、その常識との乖離の面白さに気付いた増本淳は優秀で、それらを的確にまとめ上げる能力は評価に値します。
ちなみに、これらのように常識との乖離が大きな事例として挙げられるのは、あとは「年金」くらいでしょうか。

「フロントライン」では松坂桃李演じる厚生労働省の官僚がキーパーソンとして登場しますが、例えば、日本の「年金制度」における世間の常識に関して以下のようなネタがあります。
テレビなどで厚生労働省出身者などの元官僚が脚光を浴びて、「今の年金制度は滅茶苦茶だから抜本改革が必要だ!」などと自論を展開し拍手喝采を浴びたりしています。
ただ、悲しいことに、年金の場合は、「フロントライン」「THE DAYS」の題材よりも複雑で、そもそも厚生労働省の官僚自体が勘違いしている面さえあるのです。
厚生労働省には、年金局だけでなく、医政局、医薬局、労働基準局など多くの部署があるのですが、年金だけは特殊な面があって、他の局から年金局に入ると、自分の常識が全く違っていたということに気付くのです。
つまり、イメージだけでなく制度をキチンと知らないと正確に理解できない面があるのです。
分かりやすく言うと、年金局での仕事経験が無い厚生労働省の官僚は、年金のことをほぼ知らないような面があるのです。
このような仕組みを一般の人は知らないので、「厚生労働省の元官僚=年金の専門家」といった初歩的な勘違いから、様々な誤解が生まれてしまっているのです。


何れにしても、本作のように知的な意味でも面白い作品は興行的にも評価されるべき。興行収入10億円は必達の目標として、日本でも「オッペンハイマー」のように骨太で知的な“社会派実話映画”がどんどん生まれてヒットする社会になっていくことを期待したいです。
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