丸山隆平、並々ならぬ強い思いで主演に臨んだ理由とは?【「金子差入店」インタビュー】
2025年5月15日 12:00

映画「金子差入店」で実に8年ぶりの映画主演を果たした丸山隆平。SUPER EIGHTのメンバーとしての音楽活動にバラエティなど多彩な活躍を見せている分、“演技者”としての印象はあまり強くないかもしれないが、実は俳優・丸山隆平を高く評価する声は少なくない。
そんな彼が「自分の代表作になればいいと思っている」と語るほど強い思いで臨んだのがこの「金子差入店」である。刑務所や拘置所への差し入れの代行という職業を通じて、現代社会を映し出す本作について丸山が語ってくれた。(取材・文・写真/黒豆直樹)
そもそも差入屋という職業が存在するのを知らなかったので、まずタイトルからどういう職業なんだろう? と思いました。僕自身、現場に差し入れを頻繁にしていた時期があったので、そういう差し入れを代行するという仕事かなとポップに捉えていたんです(笑)。

読んでみたら、社会にすごく貢献している職業で、映画でも描かれますけど、見方によっては偏見にさらされることもあるだろうし……。塀の中の人たちも、もちろん十人十色で、彼らが犯した罪もいろいろ。そういう人たちに差し入れをすることに対して、やっぱり罪を背負った人っていう見方、被害者側からの見方も描かれていて、単なる職業ということだけでなく、その家族や近所との関係、ひいては社会に対してという部分をすごく細かく、サスペンスも交えて描かれていて、最初に読んだ印象は「とても情報量の多い台本だ」っていうことでしたね。
ただ、すごくやりがいのある作品で、個人的に言うと、役者としてこういう作品に出合えるのはとても幸福なこと。とはいえ、やるからには全身全霊で時間や精神的なものを注ぎ込まなければいけないという怖さもありました。
想像するだけでは演じるのが難しい役だったし、現場で生まれるもの――やはりひとりで演じているわけじゃないので、映画の中で対峙する母親だったり、息子だったり、周りの人たちとできる限り想像を超えるような瞬間みたいなものを追い求めながらやっていました。

演じる上では“想像する”というよりは現場で“体感する”という感覚で、何かをひねり出すというよりも「そうなってしまった…」みたいなところを目指して演じていたと思います。
僕自身、父親になったこともないし、家庭を持ったこともないのでわからないですけど「でも金子だったらこうなってしまうんじゃないか?」というのをできる限り丁寧に、金子としてその場にいられるように努力はしました。
お互いの役については話していないですね。たしか1日で撮り終わったと思いますけど、(劇中で面会のシーンは3度あり)物語と共に段階が変化していくわけです。やっている時は「相手がどう出るのかな?」「じゃあ、こうしよう」では間に合わないですし、結局、何かを撮るという意識がある時点で、もうそれは自然の意識じゃないとは思っているんですけど、ただあの時は「こういう気持ちでこうしよう」という感じのお芝居ではなかったと思います。

完成した作品を見て自分で「あぁ、こういう感じなのか」と思いましたね。カメラテストの時は「(小島を見て)うわっ、こういう人なんや」と思いましたし、対峙した時に丸山隆平として「(北村がこの役を)どう構築してきたんだろう?」っていう興味が惹かれるところはありました。
でも、しんどかったですね、終わった時は。ただ“怒り”という一色じゃないんですよね。金子としては相手の感情が読めないし、プラン立てて演技するというよりは「何言ってんだろ、こいつ?」という感じで、葛藤とか困惑とか、いろんな感情が自分の内にある中でやりとりしていた気がします。

あれを違和感なくやるというのはすごく難しいことだと思います。つくり込んで狂気じみた人間とか変な人を演じていたら、それが透けて見えて「誰かの何かをテンプレしてんな」ってわかると思うんですけど、(北村の演じる小島は)そういうことじゃなくて「こんなやつ、いるんだ…?」「でも人だな」とちゃんと“人間”を感じさせるんですよね。ただ、何を考えているのかは分からない。「なんなんやろう? 面白いな」と思ったし、不思議な感じでした。
あったんじゃないですか? もうそんなことも忘れていますけど(笑)、撮影期間中は、できる限り日常の中にも、どこかに金子真司を置いておくようにはしていたので。それは自分にとって、作品と向き合う時の安心感なんですよね。できるだけ日常から金子真司でいることで、現場で急な変更が出ても、ちゃんとブレずにいられるんです。

撮影している時は「つかめた」と感じるよりも、監督の「OK」がひとつの指針となっていたし、むしろそれ以外なかったですね。
とにかく大事にしたのは、そのシーン、その時の金子の状態というのを「よーい、スタート」の瞬間まで、できる限り発散せず、圧縮しておくみたいなところですね。でも、そのシーンを演じ終えたとしても、発散するわけにもいかないんですよね、結局、金子真司としてはずっと迷ったり、もがいたり、時に向き合い、対峙しながら生きているので。
そういう意味で「つかんだ」とか「うまくいった」ということは考えていられなかったですね。家族との距離感も真木(よう子)さんや(三浦)綺羅くんとも、撮影の裏側では和やかにご飯を食べて、「あはは!」と笑って…みたいなことは、限りなく少なかったです。意識したというよりは、結果的にそういう方法を選んでいたんだと思います。父親の仕事のせいで息子が学校でいじめられていたり、近所からもこの仕事のせいで差別されていて…ということを金子は知らなかったので、家族とはいえ、知らないことがあるというこの距離感を撮影の裏側でも感覚的に自分の中に留めていた気がします。だから打ち上げの時には綺羅に「イェーイ!」って(笑)。それまでずっと我慢してたんでね。その閉塞感が、しっかりとスクリーンに映っているんじゃないかと思います。

目に見えない優しさ、目に見えない残酷さみたいなものを人間って皆はらんでいて、その中で、何ができるかと言ったら一生懸命、自分が「正しい」と思う道を常に選択しながら生きていくということしかなくて、それはすごく苦しいことなんですけど…。でも、そうやって大切なものを守っていけば、何か良いことが起こる気もするけど、なかなかキレイごとで収まらないのが人生であり、人間関係なんだなということを改めて実感しましたね。
今回は、親のことを思ったり、子どもの頃の自分を思い出したりということは、撮影期間中も映画ができあがってからもありました。この年になって、親と向き合ってみるという時間もこの映画のおかげで、ちょっとだけできて、実際にアクションしたりもしてみました。

俳優業でいろんな役をやらせていただくと、役によって身体がすごく変化するのが面白いですね。心が変化すると身体も変化するということが起こるんですよね。こないだ、時代劇(舞台「浪人街」)をやった時は、自然と普段からそういう歩き方になっていたのか、ふくらはぎがムッチャ太くなりました(笑)。違う人間を演じることで、物理的に身体の形が変わるって面白いです。
あとは、役によりますけど、役を構築している時は、自分でいることが落ち着かなくなるんですよね(苦笑)。ちゃんと役に準じた自分になっていないと不安で仕方がないというのはありますね。いつでも自分に戻れる状態というのが、逆に怖いんです。もちろん、その間も他の仕事は入るし、そういう時は戻っているつもりなんですけど…。そのあたりの役と自分の行き来の難しさという部分は、まだまだ未熟だなと感じていて、もっともっといろんな経験をして、突き詰められたらなというところではあります。
自分の中では役をつくっていく過程、“仕込み”の段階が一番楽しいですね。実際に演じている時はわからないです。そこは、さっきも言いましたが、監督の「OK」だけが答えだし、演じる側も技術の側も、それぞれ職人、プロフェッショナルが、自分たちの最大値を持ち寄ってやる作業であり、トライ&エラーの中から針の穴に糸を通すような作業の繰り返しですね。

これは良いのか悪いのかわかんないですけど、ある程度、いい加減になりましたね(笑)。緩め方と締め方みたいなところは変わりました。緩める時は、びっくりするくらい緩めるし、でも、緩めた後って戻すのが大変じゃないですか(苦笑)? 僕もそれはすごくあって「撮影終わりました」とか「長期間のコンサートが終わりました」となったら緩めるんですけど、次にまた社会復帰するのが大変なんですよね(笑)。でも、そこから徐々にまた仕事に向き合って、ランナーズハイみたいな状態になって、また力を抜いて…みたいなのがルーティンになりつつあるんですよね。それは40代だからなのかもしれない。
そこまで達観はできてないです(笑)。自分の本質的な部分、いい加減さとか、至らない部分、「でも、これはできるよね」というものが、ちょっとずつ見えてきたってことかもしれないです。
昔は真面目ぶって、猫をかぶって…、かぶりすぎて、何かよくわからん動物になっているような状態だったんですよね(笑)。きっと、そのまま続けていたら、本当の自分をなくして、違う生き物になっていたと思います。

実際、そうやって生きている方もいらっしゃると思うし、それはそれで、ひとつのプロフェッショナルだと思いますけど、僕の場合は、そうなったら自分を見失ってしまうんじゃないかというもろさがあって、自分のいいかげんなところや本質をわかった上で、いろんな仕事や出会いを通して、自分なりに気づいたものを自分に合った形で取り入れながらやってるんだと思います。でもなかなか、難しいですよ、自分って一番わかんないものだから(笑)。
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