【「Flow」評論】言葉を超えて深く共振しながら流れ着くアニメーションの新たな境地
2025年3月23日 08:00

観賞後、批評以前に言葉そのものを発するのをこれほど躊躇った経験は初めてかもしれない。なぜなら、本作には一度も言語が登場しないからだ。それどころか人間の姿さえ現れることはなく、物語は一匹の黒猫が水面に映る自身の姿を覗き込むところから始まり、次第に周囲を浸していく水から逃れるように、黒猫の目線でひたすらこの世界をフロウしていく。どうやらあたりでは洪水が起こっているらしい。でもそれは一体なぜなのか。人間はどこへ行ったのか。そんな説明や理屈を封印して、私たちの前にはただ状況だけが無限に広がる。
オープンソースのソフトウェアを使って製作されたインディペンデントな本作は、例えば巨額を投じて製作されたメジャー系アニメなどと比べると、動物の毛並みなどの精密さの面では確かに劣る。だが、そんなことは取るに足らない。自然界の息を呑む背景や動物たちの瞬発的な動き、それを追うカメラワークが素晴らしいのはもちろん、それ以上にこの映画が成し遂げたのは、いざスクリーン前に座りさえすれば、国籍や年齢にかかわらず誰もが分け隔てなく感覚的にすぐさま没入できるということに尽きる。これはサイレント時代から続く映画の伝統でありながら、複雑化、先鋭化した現代におけるひとつの表現の革新と言っていい。
まるで宮崎アニメ(ジジとでも名付けたくなる)から飛び出したかのような黒猫は一体どこへ向かうのか。いつしか目の前には帆付きの小舟が漂い、それに乗って旅が始まり、次第に仲間が増えていく。いつもズデンと寝転ぶカピバラの可愛らしさ、光る物に目がないテナガザルの執着、犬が全身から放出する「かまって!かまって!」感、そして船尾で舵を取る鳥の神々しいまでの立ち姿。かと思えば、水面には時に荘厳なクジラが顔を出す。意味を限定しないこの世界観は、本当に雄大で、コミカルで、微笑ましく、どこまでも深淵だ。
彼らは擬人化されることなく、常にリアルな鳴き声と習性でそこに息づき、それでいて互いの違いを乗り越え、本能的に助け合いながら、旅路を進む。さながら小舟は多様な生命が隣り合う地球の象徴ともいえるし、はたまた前作「AWAY」(2019)をほぼ一人で手掛けた若き監督が一転して挑んだ「仲間と共にある」今作の製作体制そのものでもあるのだろう。旅の果てにオスカー受賞を果たしたこの新星が今後いかなる探究を続け、アニメ界に更なる新風を吹かせてくれるのか楽しみでならない。
(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
執筆者紹介
牛津厚信 (うしづ・あつのぶ)
映画ライター。77年長崎生まれ。明治大学を卒業後、某映画専門放送局の勤務を経てフリーに転身。クリエイティブ・マガジン「EYESCREAM」や「パーフェクトムービーガイド」などでレビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。またイギリス文化をこよなく愛し、その背後にある歴史や精神性を読み解くことをライフワークとしている。
Twitter:@tweeting_cows/Website:http://cows.air-nifty.com/
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