【「ウィキッド ふたりの魔女」評論】舞台では到底不可能な映画だけに許された視覚的没入感が半端ない
2025年3月9日 19:00

同名のブロードウェイ・ミュージカルが開演して約20年、今も舞台版が続演中(ブロードウェイのガーシュイン劇場ほか)のヒット作が、製作開始からパンデミックを挟み、10年以上を費やして、ようやくミュージカル映画として完成した。その道のりは長かった。
MGMミュージカルの金字塔「オズの魔法使」(1939年)に登場する後に“西の悪い魔女”となるエルファバと、正反対に“善い魔女”となるグリンダの出会いを描く前日譚。ジュディ・ガーランド主演のオリジナル映画があまりにも伝説的で、かつ舞台版「ウィキッド」にも根強いファンが多い中、最新版では、エルファバとグリンダが学園生活を送るシズ大学やオズの国を映像化する上で、水や光をふんだんに投入したマジカルな世界がビジュアル化されている。
舞台では到底不可能な、映画だけに許された視覚的没入感が、まず半端ない。そして、外見のコンプレックスからなかなか抜け出せないエルファバの頑なな心を溶かす、グリンダの一点の曇りもない優しさが、本当の友情とは何か? 正義とは何か? という作品のテーマに繋がって行く。ルッキズムにも言及したストーリーは、今こそ、すべての映画ファンの心に響くに違いない。
あまりいい話題が少ないこの時代に、何しろ、観ていて楽しく、同時に学ぶことも多い本作。特に期待以上だったのは、役柄と同じく正反対の個性を持つ2人の俳優たちが醸し出す絶妙なケミストリーだ。台詞は勿論、歌も同時録音したいと監督のジョン・M・チューに願い出たというエルファバ役のシンシア・エリヴォとグリンダ役のアリアナ・グランデが、ヒロインたちの心に宿る相手を思いやる気持ちや疑問、憎しみを、俳優の内面を覗き込むようなクロースアップに耐えつつ、巧みに表現している。吐息まで聞こえてきそうなカメラと俳優の距離感は、2人の役に対する情熱の裏返しだろう。グリンダは善意の塊であるだけに時折傍迷惑だが、グランデのイノセンスな個性が役作りに貢献しているし、緑色の肌にそばかすを散りばめたエルファバの瞳は限りなく透明で、その瞳を介してエリヴォの演技に引き込まれる瞬間が何度かあった。
劇中で歌われる計13曲の中でも、ラストでエルファバとグリンダたちが畳み掛ける“Defying Gravity”は、2時間41分あるパート1を締めくくるフィナーレであり、同時に、今秋公開されるパート2「ウィキッド・フォー・グッド(原題)」へと繋がる壮大なオーバチャーだ。こんなにも高揚感を伴う続編への橋渡しは、ちょっと珍しいかもしれない。
執筆者紹介
清藤秀人 (きよとう・ひでと)
アパレルメーカーから映画ライターに転身。TVガイド、TV TARO、TV Bros等にレビューやインタビューを執筆。著書としてファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社)「FUNNY FACE」(マガジンハウス)他。
Twitter:@hidetokiyotoh
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