【「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」評論】胸を締めつけられるドキュメンタリー。それは、被害者サイドと加害者サイドのコラボレーション
2025年2月23日 20:30

いま(2025年2月)、イスラエルのガザ地区における停戦と、その履行をめぐる駆け引きがニュースを賑わせています。トランプ大統領が、アメリカが同地区を統治すると発言していることも物議を醸しています。それにしても、直近のニュースに映るガザの映像には胸を打たれます。瓦礫の山と化したガザの街を空撮する映像は、日本人なら「戦後の焼け跡」のイメージと同一です。
そして、今回「ノー・アザー・ランド」で描かれる「ヨルダン川西岸」で起こっている事案は、ガザとはまた趣が異なっています。ガザは空爆によって大規模に攻撃されてきましたが、ヨルダン川西岸地区は、もっと小規模ながら、執拗で容赦ない、そして継続的な破壊と弾圧が行われているのです。
住民たちパレスチナ人の家が破壊され、井戸がセメントで埋められ、学校や公園も重機で潰されていく映像は、見る者の胸を締めつけてやみません。「何で壊すの?」「そこまでするの?」という疑問と怒りが、映画を見ている間ずっと脳裏から離れません。
そんな救いのないシークエンスの連続なのに、この映画が世界で多くの賞を受賞しているのは、2つの理由があるからだと個人的には思いました。
まず1つ目は、「そこで起きていることを、ありのままに伝えているから」でしょう。普通にこの映画を見ていると、非道な行いをしているのは、イスラエルの人々(軍や入植者たち)で、被害にあっているのはパレスチナ人のもともと住んでいる居住者であることは明らかです。
そして2つ目は、この映画のコアメンバーが、パレスチナ人2人とイスラエル人2人という、被害者側と加害者側両方からの人員で構成されている点です。
これは非常に重たい、かつ尊敬に値する事実です。
パレスチナ人クルーは、カメラを回すことにより、イスラエル兵や、時には入植者(一般人です)から銃を向けられるという事態に頻繁に遭遇します。「なにをしているんだ!」「撮影を止めろ!」という罵声を常に浴びています。
一方のイスラエル人クルーにしても、「お前は裏切り者か」「任務の邪魔をするな」という罵声を同胞から食らうのです。
しかし彼らは「そこで起きていることを、ありのままに伝える」というミッションにいささかの躊躇もありません。ペンは剣よりも強し、カメラは銃よりも強し。
残念ながら、映画の終盤にこれといったカタルシスは用意されていません。しかし、今どきのドキュメンタリーの特徴として、本編撮影後に起きたことを、スタッフのSNSを通じて追いかけることができるというのがあります。コアメンバー4人の名前で検索して、彼らのSNSを覗いてみてください。
Rachel Szor (イスラエル人)
Hamdan Ballal (パレスチナ人)
Yuval Abraham (イスラエル人)
この映画がアカデミー賞にノミネートされたことは、本編終了後の最大のカタルシスと言えるでしょう。さらには「アカデミー賞受賞」というもっと大きなサプライズが待っているかも知れません。そこまで見届けることを含めてが、今どきのドキュメンタリー映画の楽しみ方なんだと思います。
本年度アカデミー賞授賞式は、3月3日(日本時間)に行われます。
(C)2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
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