【「型破りな教室」評論】答えはきっと見つかる。素朴な疑問が導く生きることの喜び
2024年12月22日 16:00

「型破りな教室」は、2011年に米国境近くのメキシコのマタモロスを舞台に、落ちこぼれ小学校に赴任した教師と6年生23人の1年を綴った作品だ。WIRED 2013年10月号に掲載された「天才の世代を解き放つラディカルな方法」を基にした実話である。
名優エウヘニオ・デルベスが「コーダ あいのうた」(2021)に続いて教師役で主演、サンダンス国際映画祭・観客賞に輝き、メキシコで映画年間興収1位を記録した国民的映画となった。監督はケニア出身で現在はグアテマラを拠点に活動するクリストファー・ザラ。サンダンス国際映画祭・審査員特別賞を受賞したデビュー作「Blood of My Blood」(2007)に続く長編第2作。子どもの視点にこだわった撮影では、大人たちがフレームアウトすることも構わずに、3台のカメラを使って子どもたちの瞳の輝きをナチュラルに捉えている。
冒頭、夕闇迫る砂漠で少年が老婆を乗せた車椅子を押している。緑のTシャツを着た彼は裸足だ。そこにバイクが近づき「早く隠れろ」と声をかける。時間がない。まごつく子を見かねてバイクから降りてサボテンの影に老婆を隠すと「黙らせろ」と叫ぶ。程なくギャングの車が追いつく。その時、凍り付いた少年の目に鎖で繋がれた青年ふたりの姿が飛び込んでくる。「チェベ(ヴィクター・エストラーダ)、ちゃんと先導しろ」の声でバイクが走り出す。有刺鉄線で遮られたこの地では誰であろうと容赦しない。理不尽な暴力や有無を言わせぬ粛正が繰り返されている。
2011年、「罰の学校」と称される小学校始業の朝。砂漠から離れたカメラは4人を追う。兄のチェベを慕いギャングになりたいと思っているニコ(ダニーロ・グアルディオラ)、弟と妹と手をつないで登校するルペ(ミア・フェルナンダ・ソリス)、廃品を集めて日々の生計を立てる父と暮らすパロマ(ジェニファー・トレホ)。同じ頃、教職員のためにドーナツを2ダース買い込む巨躯の校長チュチョ(ダニエル・ハダッド)が車で学校へ。麻薬と殺人が日常化しギャングとパトカーが行き交う通学路は常に危険と隣り合わせだ。
最初の授業が始まる。机と椅子が片隅に追いやられた教室の中央に座った先生が「これは救命ボート。どれも乗れる人数は同じ。乗れない人は溺れる。ボートは6つ、君たちはどうする」と23人に問いかける。驚き、戸惑いながらも生徒たちは考え始める。ひとつの発見が新たな疑問を生む。答えを見つけるためにパソコンを使いたいが4年前に盗まれたまま。先生は生徒を引き連れて図書室へと向かう。
この先は本編をお楽しみいただくとして、映画の主題のひとつが“ポテンシャル”である。誰もが内に秘めている“可能性”を見つけるために最も重要なことは何か。教師は子どもたちの素朴な疑問にこそ新たな発見が秘められていると信じている。結論を急ぐことなく自分で考える。この行為が自発的であるかどうかが肝心だ。テストに出るかどうか、そんなことは二の次だ。
映画を観て最初に思い浮かんだのは大学生の頃に読んだ糸井重里氏のコラムだった。「問題意識」をテーマに執筆された文章には、誰もが持ち得ることなのに人によってはなかなか身につかない問題意識のことが記されていた。子どもたちに根付いた疑問は、問題意識となって常に頭の中にあり続ける。そして、ふとした瞬間にひらめきが訪れる。考え続ければ答えはきっと見つかる。素朴な疑問が導く新たな気づきが生きることの喜びとなって明日を輝かせてくれる。
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