映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック
その他情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

なぜ日本人のアーティストは政治的な発言をしないのか――金子文子からもインスピレーション「HAPPYEND」空音央監督

2024年10月6日 10:00

リンクをコピーしました。
空音央監督
空音央監督
(C)佐藤久理子

2023年、坂本龍一の最後の演奏を収めたドキュメンタリー、「Ryuichi Sakamoto | Opus」のワールドプレミアで、ベネチア国際映画祭の地を踏んでから、わずか1年後。念願の初長編フィクション「HAPPYEND」で、再びベネチアの地を踏んだ空音央監督は、終映後、キャスト陣とともに満場の拍手で迎えられた。彼が胸にパレスチナの旗と「フリー・パレスチナ」と書いたワッペンを付け、「ケフィエ」と呼ばれる伝統的なパレスチナのスカーフをつけて登壇すると、観客席からは「ありがとう」という声も飛んだ。

近未来の日本を舞台に、監視社会や人種差別など、さまざまな脅威にさらされる高校生たちの友情と成長物語を瑞々しく描き、独創性を強く印象付けた彼に、本作に込めた思いを現地で語ってもらった。(佐藤久理子)

画像7(C)2024 Music Research Club LLC
<あらすじ>
20XX年の日本のとある都市の高校で、幼馴染のユウタとコウは、気の合う仲間と大好きな音楽や夜遊びに興じていた。だが、ユウタの思いついたあるいたずらが元で校長が激怒。それを機に学生を監視するAIシステムが導入され、学生たちの中でも管理システムをめぐって意見が分かれる。さらに在日韓国人のコウに対する風当たりも強くなり、果てはコウとユウタの友情にも亀裂が乗じていく。
画像5(C)2024 Music Research Club LLC
――近未来の日本が舞台ですが、政治的なテーマは普遍的で、公式上映ではそれが観客にも十分に伝わった印象がありました。ご自身はどのような手応えを感じられましたか。

この物語の大きなインスピレーションのひとつが、関東大震災とそれに付随する朝鮮人虐殺の歴史、また現代の人種差別的な投稿やデマといったものでした。上映のあとにいろいろな国の方々が話しにきてくれて、これは日本の話だけど、自分はブラジル人でイタリアに住んでいて同じような経験をしたと言われたり、在日コリアンの方にありがとうと言われました。構造的な差別や支配といったものはどこの国も似通っているもので、本当に多くの国がいまファシズムに近づいているような傾向があるので、観た人のなかに刺さるものがあったんじゃないかと思います。質疑応答も観客の方々がすごくいい質問をしてくれました。本当にちゃんと映画を見てくれているし、もっと知りたいと思ってくれているのが感じられ、感慨深かったです。

画像9(C)2024 Music Research Club LLC
――主人公である5人の高校生たちは、ユウタとアタちゃんを除いた3人がそれぞれミックスルーツを持っています。また彼らの他にもクラスメートにはそういう子たちが見られますが、それはいまの現実を反映したいという意図からですか。

そうですね。普通の映画はみんな日本人ばかりというところに、僕はいつも違和感を持っているので。本当にそうなのか? ということを考えてしまうんです。なぜならじつはよく聞いてみたら、家系を辿ったら日本人じゃない人も多いかもしれないし、そもそも日本人って何? という問いに行き着くと思います。国籍かといったら、国籍を持っていない日本人もいますし、日本生まれではない日本人もたくさんいると思いますし、じゃあ日本語を喋れるから日本人なのか、といったらそういうわけでもない。

何が日本人を定義しているのかというと、近代国家を作るにあたってどうしても必要なナショナル・アイデンティティが日本人というものだと思うんです。じつは日本人と言われている人たちにはいろいろな血が混ざっているかもしれない。単一民族神話といったものを自分は崩したいと思っているのです。それは幻想であって現実と即さない。とくに将来は見るからにそうではなくなっていくということが、日本の近未来という設定を考えたときに当てはまると考えました。とくにそれをドラマにするわけではないけれど、そういう現実を当たり前かのように描きたかった、というのが大きなモチベーションとしてありました。

画像4(C)2024 Music Research Club LLC
――在日韓国人であるコウとユウタの育ちの違いは、物語が進むに連れ明らかになります。コウは外からの差別を受けるけれど、ユウタはそういうことを何も考えずにいられる、ある意味恵まれた環境にある。それがあることがきっかけで友情に亀裂が入り、ユウタも考えずにはいられなくなる。そうした過程が、とてもリアルで説得力があると思いました。

痛みを知っている人は他の人の痛みに気付くし、構造的な差別や社会的な理不尽に気付きやすいと思うんです。でもそれを経験したことがない人たちは、たとえばそれを気付かなくてもいい人生を歩んでいる人たち――もちろんそれでも気付く人もいると思うんですが、気付かない人もたくさんいる。それが社会の構造を露呈しているということはいつも考えていることなんです。日常を観察すると、本当にそれがいろいろなところに現れている。そういう背景の違いや階級格差なども、辿っていくと人種とか植民地主義の歴史などに繋がっていくものだ、ということが歴史を勉強してわかりました。

その気付きを与えたくれたのが、アメリカにおける黒人の存在なんです。ブラック・ライブズ・マターでつねに指摘されていたのは、アメリカの経済格差を見ていると、黒人の女性やトランスジェンダーの人たちが一番下層にいて。それはなぜかと考えたとき、英語ではジェネレーショナル・ウェルスと言われますが、世代的な富が政策的に禁じられてきたから。たとえば白人が許可されているような、家を買って資産を築くみたいなことが黒人は制度的に許可されていなかった。そういった歴史を知ると、今の日本における格差や差別も日本の歴史と切り離せないものだとわかってきたのです。

画像3(C)2024 Music Research Club LLC
――学生たちのなかで、一番行動的なキャラクターをフミ(祷キララ)という女性にした意図は?

このキャラクターのインスピレーションになったのが金子文子(かねこふみこ・大正時代のアナーキスト、歌人)という人なんです。1920年代、政治的に怒りを表明した女性で、朴烈(パクヨル)という若い在日朝鮮人の詩人と出会って、関東大震災の直後に逮捕されてしまった。彼女がインスピレーションのもとになったというのがあります。

画像2(C)2024 Music Research Club LLC
――この映画のようにストレートに政治性を打ち出したものは、日本映画には珍しいのではないかという印象を受けました。

僕にとっては逆に、なぜ日本人のアーティストが政治的な発言をしないのか、ということの方が不思議です。僕は映画やアートや音楽に一番教えられるものというのは、人間とは何かということだと思っています。たとえば戦争を描いた映画だったら、いかに戦争が悲惨で人間性を破壊してしまうものなのか、ということを自分は映画から学んだ。表現を仕事にしている人だったら、誰でも当たり前のようにすぐに声をあげるのではないか、その方がふつうだと僕は思っていたのですが、どうやら世の中はそうでもないということがわかってきた。でも個人的には、じゃあ彼らは何をアートから学んできたのだろうと思います。

画像6(C)2024 Music Research Club LLC
――5人の高校生(栗原颯人日高由起刀林裕太シナ・ペンARAZI)のキャスティングについて聞かせて下さい。ほとんどが、演技経験がなかったというのが信じられないほど説得力がありました。

数百人のオーディションをしたんですが、本当にそれぞれが一目惚れのように、直感的にこの人だとわかったんです。部屋に入ってきた瞬間に。そのあとセリフを言ってもらっても、演技未経験者が多いにも関わらず本当にうまかったし、話を聞くと、それぞれキャラクターとすごく共通するなにかを持っていた。その5人がとても仲良くなって、いまでも親友のようになっています。完璧な人が見つからない限りは探しつづけるという覚悟でやっていましたが、本当に奇跡的な出会いでした。

画像8(C)2024 Music Research Club LLC
――神戸で撮影され、ほとんどは日本人のスタッフと聞きましたが、撮影監督だけは前作で組んだビル・キルスタインですね。日本での撮影にも拘らず彼を選んだ理由は?

ビルとは僕の最初の短編、「The Chicken」から、ずっと一緒にやっています。本当にあうんの呼吸で信頼し合っていて、彼のセンスも大好きです。何より映画を本当に愛しているのが感じられます。そして技術的に美しい画を作るだけじゃなく、そのシーンに必要なエモーションを掬い取る、気にかけてくれるので、ビルしかいないというのは最初からわかっていました。それで2017年頃、脚本の第一稿ができた段階ですでに相談しました。

――最後に、空監督が一番尊敬する監督というと、どなたになりますか。

(きっぱり)エドワード・ヤン監督です。

坂本龍一 の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

シネマ映画.comで今すぐ見る

止められるか、俺たちを

止められるか、俺たちを NEW

2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した一作。1969年を時代背景に、何者かになることを夢みて若松プロダクションの門を叩いた少女・吉積めぐみの目を通し、若松孝二ら映画人たちが駆け抜けた時代や彼らの生き様を描いた。門脇むぎが主人公となる助監督の吉積めぐみを演じ、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」など若松監督作に出演してきた井浦新が、若き日の若松孝二役を務めた。そのほか、山本浩司が演じる足立正生、岡部尚が演じる沖島勲など、若松プロのメンバーである実在の映画人たちが多数登場する。監督は若松プロ出身で、「孤狼の血」「サニー 32」など話題作を送り出している白石和彌。

青春ジャック 止められるか、俺たちを2

青春ジャック 止められるか、俺たちを2 NEW

若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇。 熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。 前作に続いて井浦新が若松孝二を演じ、木全役を東出昌大、金本役を芋生悠、井上役を杉田雷麟が務める。前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた。

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命 NEW

19世紀イタリアで、カトリック教会が権力の強化のために7歳になる少年エドガルド・モルターラを両親のもとから連れ去り、世界で論争を巻き起こした史実をもとに描いたドラマ。 1858年、ボローニャのユダヤ人街に暮らすモルターラ家に、時の教皇ピウス9世の命を受けた兵士たちが押し入り、何者かにカトリックの洗礼を受けたとされるモルターラ家の7歳になる息子エドガルドを連れ去ってしまう。教会の法に則れば、洗礼を受けたエドガルドをキリスト教徒でない両親が育てることはできないからだ。息子を取り戻そうとする奮闘する両親は、世論や国際的なユダヤ人社会の支えも得るが、教会とローマ教皇は揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとはせず……。 監督・脚本は、「甘き人生」「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」「シチリアーノ 裏切りの美学」などで知られるイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ。教皇ピウス9世役はベロッキオ監督の「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」にも出演したパオロ・ピエロボン。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

コカイン・ブライド

コカイン・ブライド NEW

娘・ダーシャの将来のため、暴力的な夫から逃れようとマッチング・サイトに登録したニーナは、アメリカで暮らす裕福な引退した外科医・カールと出会う。すぐさまロシアからアメリカへと渡った親子は、ささやかな結婚式を行い、幸せな生活を楽しみにしていた。しかし、結婚式の直後から、ニーナとダーシャに不可解な現象が次々と降りかかる。頼りにしていたニーナの親戚は結婚式の帰路で事故死し、ダーシャは屋敷の中で女の幽霊を見るようになる。そんななか、ニーナはカールがコカインを吸っているところを見てしまう。ダーシャの将来を考えやりきれなくなったニーナは、人里離れた屋敷から出ていくことを決意するが…。

キャンディ・ウィッチ

キャンディ・ウィッチ NEW

現世に残る死者の声を聞く能力者のリースとその相棒兼恋人のキャットは、霊障に悩む人々からの依頼を受け、心霊現象の調査と除霊を行っている。ある夜、ルースという女性から「キャンディ・ウィッチに苦しめられている」と連絡を受けたリースは、キャットと共にヘザーの家を訪れる。お菓子の杖で子供を襲うキャンディ・ウィッチの正体は、かつて町の子供たちを虐待し苦しめた邪悪な乳母の悪霊だという。しかし、調査を進めるにつれ、キャンディ・ウィッチの呪いに隠された町の暗部が明らかになっていく。果たしてリースは、この悪霊の殺戮を阻止し、町にはびこる邪悪な呪いを解くことができるのか?

蒲団

蒲団 NEW

文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング

映画ニュースアクセスランキングをもっと見る

シネマ映画.comで今すぐ見る

他配信中作品を見る