【「チャイコフスキーの妻」評論】異性を愛せない男に報われない愛を捧げた女の悲劇
2024年9月15日 10:00

チャイコフスキーの妻アントニーナ・ミリューコヴァは、ハイドンの妻、モーツァルトの妻と並ぶクラシック界3大悪妻のひとり。ただし、夫の仕事を理解せず性格に問題があったハイドン妻や、浪費家で浮気性だったモーツァルト妻と比べると、アントニーナは、別の男性と結婚していたら良妻になっていた可能性を秘めている。キリル・セレブレンニコフ監督が描くのは、そんな相性の悪さに人生を狂わされた女性の物語。チャイコフスキーが同性愛者だった事実を明確に提示することで、異性を愛せない男に報われない愛を捧げた女の悲劇として作品を成立させた。
アントニーナ(アリョーナ・ミハイロワ)とチャイコフスキー(オーディン・ランド・ビロン)の不幸な結婚を暗示する2つの場面が強い印象を残す。ひとつは、チャイコフスキーに対してストーカーもどきの片思いを募らせるアントニーナが、教会の前で錯乱した女に絡まれる場面。女が口走る結婚や夫への恨み言は、そのままアントニーナが通って行く道を示している。もうひとつの場面は、同性愛の隠れ蓑にするべく結婚を決意したチャイコフスキーの心情がよく表れた結婚式。早くも後悔の表情を浮かべるチャイコフスキーの持つロウソクの炎が消えたり、結婚指輪が入らなかったり。呪われた感がめいっぱい漂う。
結局、2人の結婚生活は数週間で破綻し、チャイコフスキーはモスクワから逃亡する。このときのアントニーナの最大の誤算は、ありったけの愛を注げばチャイコフスキーの性癖が変わり、自分の元へ戻って来ると勘違いしたことだろう。同性愛を理解できない彼女は、「彼は天才で私は凡人だから愛されない」と思い込み、見当違いの苦悩を深めていく。不憫と言うしかない。
チャイコフスキーに遠ざけられれば遠ざけられるほど、崇拝の念を強めていくアントニーナの心情について、「アントニーナにとってチャイコフスキーは偶像のような存在であることが重要でした。彼女にとって最も重要な神はチャイコフスキーでした。彼女はいつもチャイコフスキーと結婚できるよう神に祈っていましたが、神の座がチャイコフキーになってしまったことを示すことが私には重要でした」と、セレブレンコフ監督は説明する。信仰を捧げた神に「毒蛇」と罵られるアントニーナの心中はいかなるものだったのか。彼女の葛藤と孤独、満たされない欲望を、全裸の男たちとのダンスで表現した演出が鮮烈だ。
(C)HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA
関連ニュース






【第78回カンヌ国際映画祭】オフィシャル・セレクション発表、早川千絵監督作など日本映画3本 応募作は過去最高の2909本、現代社会の暴力、愛、寛容など描く作品目立つ
2025年4月10日 23:00
映画.com注目特集をチェック

映画「F1(R) エフワン」
【語れば語るほど、より“傑作”になっていく】上がりきったハードルを超えてきた…胸アツをこえて胸炎上
提供:ワーナー・ブラザース映画

たった1秒のシーンが爆発的に話題になった映画
【この夏、絶対に観るやつ】全世界が瞬時に“観るリスト”に入れた…魅力を徹底検証!
提供:ワーナー・ブラザース映画

でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男
【あり得ないほど素晴らしい一作】この映画は心を撃ち抜く。刺すような冷たさと、雷のような感動で。
提供:東映

186億円の自腹で製作した狂気の一作
【100年後まで語り継がれるはず】この映画体験、生涯に一度あるかないか…
提供:ハーク、松竹

なんだこの映画は!?
【異常な超高評価】観たくて観たくて仕方なかった“悪魔的超ヒット作”ついに日本上陸!
提供:ワーナー・ブラザース映画

すさまじい映画だった――
【あまりにも早すぎる超最速レビュー】全身で感じる、圧倒的熱量の体験。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

“生涯ベスト”の絶賛!
「愛しくて涙が止まらない」…笑って泣いて前を向く、最高のエール贈る極上作【1人でも多くの人へ】
提供:KDDI

究極・至高の“昭和の角川映画”傑作選!
「野獣死すべし」「探偵物語」「人間の証明」…傑作を一挙大放出!(提供:BS10 スターチャンネル)