【第81回ベネチア国際映画祭】空音央監督「HAPPYEND」 友情物語と日本のリアルな問題が融合した力作に満席会場から「ブラボー」
2024年9月4日 13:00

第81回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で、現地時間の9月2日、空音央監督の「HAPPYEND」がワールドプレミアを迎えた。同部門は斬新でオリジナルな作品を紹介するセクション。満席の会場は「ブラボー」の声とともに大きな拍手に包まれた。
物語は一見、今日とまったく変わらない近未来を舞台にしている。高校卒業を前にした幼馴染の大親友、ユウタ(栗原颯斗)とコウ(日高由起刀)のあいだに、ある悪ふざけをきっかけに亀裂が入る。コウが在日韓国人という設定や、ふたりを取り巻くクラスメートにもさまざまな人種的ルーツを持ちながら、日本で育った学生たちが混ざり、そんな彼らが抱く違和感が、物語のなかに巧みに掬い取られている。思春期の友情物語と、いま日本で抱えるリアルな問題が融合した力作である。
(C)Kuriko SATO終映後の観客とのQ&Aには、空監督とともに出演者の日高、クラスメートを演じた林裕太、シナ・ペン、ARAZIが出席した。空監督が胸にパレスチナの旗を付けたスーツを着て登壇すると、パレスチナ支持派の観客から「ありがとう」という声が上がった。
空監督は本作の動機を、「自分にとって高校時代は、大人ではないが大人の世界に足を踏み入れ始めている、曖昧で多感な時期。当時を振り返り、自分がもっと友だちについて気づいてあげるべきだったこと、あるいは友達に自分のことを知って欲しかったことなどがあり、そういった親友との日々や関係性について描こうと思いました」と説明。続けて神戸をロケ地にした理由について、「歴史的に外国人が多く入ってきた土地であり、さまざまなバックグラウンドの人々が集まっている。実際に出演者のひとり、シナ・ペンさんは神戸の出身で、彼女の出たインターナショナル・スクールからエキストラも参加しています。この映画のようなやり方で今の日本の肖像を描くのは、自分にとって真正性という意味でとても重要でした。日本は単一の民族のように思われていますが、実際はそうではなく、多くの異なるバックグラウンドの人々が集まっています」と説明した。
(C)Kuriko SATOまた昨年のベネチアに出品された前作、「Ryuichi Sakamoto|Opus」が、空監督の父、坂本龍一のコンサート・ドキュメンタリーであったのに引き換え、今回が長編劇映画デビュー作となったことについて、「本来、この作品の方を前作よりも前から考えていました。タイミング的にたまたま後になりましたが、脚本を7年前から書き始めた。ずっとフィクションを撮りたいと思っていて、本作は映画監督として自分のやりたいことにより近いものなので、実現できてとても嬉しいです」と語り、拍手を浴びた。
最後に、出演者のひとりである林が、映画のなかでも着ていたジャケットの、背中に入ったパッチワークを披露すると、会場はさらなる満場の拍手で沸いた。(佐藤久理子)
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