【「至福のレストラン 三つ星トロワグロ」評論】目に美味しく、心に豊かな、240分の濃密なヴォヤージュ
2024年8月25日 08:00

パリ・オペラ座やロンドンのナショナル・ギャラリー、ボストン市長舎など、国を跨いでさまざまなところにカメラを持ち込む神出鬼没なドキュメンタリー作家、フレデリック・ワイズマン。彼がフランスの三つ星レストラン、トロワグロを題材に選んだと聞いて、正直興奮を抑えきれなかった。というのも、トロワグロは代々家族経営をおこなっている、料理界では今日日珍しいメゾンであると同時に、55年間もミシュラン三つ星を維持している稀有なレストランだからだ。その奥義をいかにワイズマンが掬い取るか、これは期待しない方が無理というものだろう。
インタビューやナレーションをいっさい用いないことを自分に課しているワイズマンは、潔いほどにあるがままを映す。もちろんそこには編集という、彼の奥義があるわけだが(撮影はおよそ150時間に及んだというから、240分の上映時間はかなり圧縮されていると言える)、何もギミックを加えずに彼自身が観察したものを観客に差し出すため、観る者はまるでひと夏をトロワグロで過ごすかのように、ゆったりと彼らとの時間を享受することができる。
パリからおよそ400キロ南下したロワールのウーシェにあるトロワグロは、周りを牧草地に囲まれた、レストランとホテルが一体となったオーベルジュだ。パーマカルチャーの理念に基づき、広大な敷地ではハーブ栽培や養鶏が行われている。
馴染みのマルシェで気さくに会話をしながら買い出しをする、現在厨房を仕切る第4世代のシェフ、セザールと弟のレオ。ふたりの父で、総監督とも言えるミシェルとの家族会議。近隣の有機栽培を手がける農民とミシェルの、自然を尊ぶ生産方法に関する会話。厳格な規定のもとにチーズを管理するチーズ熟成工場を訪れる従業員たち。厨房で一心に自身のノルマに集中する料理人たちの横顔。こうした情景の積み重ねに、この一家の謙虚で新しいものに開かれた姿勢が浮かび上がるとともに、観る者も多くのことを学ぶことができる。さらに接客サービスをするミシェルと客との即興の対話は、考え抜かれたフィクションのセリフに勝るとも劣らぬ面白さに満ちている。
なんと豊かな時間だろう。料理が芸術であり、生き方における哲学でもあるということを、これほど気持ちよく教えられる機会もないに違いない。
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