【「夏の終わりに願うこと」評論】親しき者の消え入りそうな命を思って流れる人の涙の熱さを知っているか
2024年8月12日 15:00

昨年、大好きだった友だちを癌で亡くして、今は今で、その病気と苦しみながら向き合っている知人が身近に幾人かいる。自分ももうすぐ還暦となればこうしたことがあるのは当たり前だし、またいつ自分がその仲間になっても不思議はない。しかし、仕方のないことと分かってはいても、病気というやつに残された時間を脅かされるのは、なんとも悔しく、辛く、寂しいものである。
「夏の終わりに願うこと」は、見るからに余命いくばくもない、しかしまだ若いお父さんの、おそらく最後の誕生日パーティーの一日だけを描いた映画である。まるでホームムービーのようにカメラが4:3のフレームいっぱいに人々に接近するので、始まってしばらくの間、ドキュメンタリーなのかと思った。
しかし、それにしては出てくる人が誰もカメラを見ない。ちょっと待て、この幼い娘も、この妻も、このお姉さんたちも、このお爺さんも、このヘルパーさんや友人たちも全員俳優なのだ、これはれっきとした劇映画なのだと気付いた時には、一体どうやってこんなに沢山の人たちを演出して、生中継のように映像にすることが出来るのか、まだ若き女性監督の生み出したマジックに驚くほかなかった。
この1日の間に、登場人物たちの間に流れていた愛情だけでなく、もはや修復することのできそうにない関係も映し出される。生きるということは、辛さ、悲しさ、苦しさ、もはや原因も忘れた憎しみで自分を塗り固めていくことでもあり、それらはあなたの心の底に澱のように巣くう。
時折挟まれる動物や昆虫のショットが「しょせん、あんたら人間なんてその程度のもんだろう?」と、ぶっきらぼうに突き放す。いや、自分たちがダメダメなのは分かってる。でも、親しき者の消え入りそうな命を思って流れる人の涙の熱さを、君たちは知ってるかい?
この映画にひと時、浄化されて、私たちはまた日々の苦悩に一歩を踏み出す。
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