片渕須直監督、アメリカの視点で「反対側から描く」ことに意義と語る 「オッペンハイマー」広島アンコール上映で西﨑智子氏と対談
2024年8月6日 07:00
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戦後79年、広島の人々にとって特別な日となる8月6日を目前に、4日、広島の八丁座で「オッペンハイマー」アンコール上映記念最終イベントが行われ、「この世界の片隅に」の片渕須直監督と広島フィルム・コミッションで活動する西﨑智子氏が対談した。
作品賞を含む7部門でアカデミー賞を受賞。クリストファー・ノーランが監督、脚本、製作を務めた本作は、第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者J・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話に基づいて描いた作品だ。2023年7月17日に全米で公開され、全世界の興行収入約10億ドルの大ヒットを記録。キリアン・マーフィが主演を務め、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.らが出演している。
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満席の場内で盛大な拍手で迎えられた片渕監督は、「広島と呉の戦時中の生活を描いた作品を作ったことで、何年か前に平和記念式典に呼ばれて8時15分の投下時の時間が迫ってきて今何を考えているかと問われて、原爆投下の前と直後で全く変わってしまった広島の空にどの方向からB29が来たのか空を眺めていたいと答えた。『オッペンハイマー』を観て思ったのは、原子爆破はずっと遠いアメリカの砂漠からきたことは知識としては知っていたが、映画で具体的な姿となって自分たちの前に迫ってきた。トラックで出荷され太平洋を渡る描写によって、自分の中で繋がった」とコメントした。
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続いて西﨑氏が「オッペンハイマーの濃密な人生、脳内までも追体験できる凄い映画体験をさせていただいた。ただ単純に楽しめないのは爆発シーンで、あの実験場で白衣を着た友人の母が立っていたことを思ったり、辛い体験を語っていただいた数多くの被爆者の方の顔が浮かび胸が詰まった。最初に観たときは劇場のあちこちですすり泣きの声が聞こえて広島での映画体験を感じた。脳内描写は凄い体験、片渕監督が『この世界の片隅に』で晴美さんが亡くなるシーンや、すずさんがなくなった右手を見つめる姿をこれまでの作品とは違ったトーンで描かれていて、全く違う形であの時も特別な映画体験をさせていただき、不思議と両監督の作品をシンクロさせながら観ていた」と、ノーランと片渕監督の作品に言及した。
西﨑氏のコメントを受けて片渕監督は「広島の八丁座では原爆にまつわる何本かの映画が特集上映されているが、何よりもその中にアメリカ発の『オッペンハイマー』がこんな形で入ったことが画期的なこと。色んな映画は別々の視点で同じ世界を描いていて、それぞれの片隅から描いて切り取っている。1本の映画の中で完結して描くことは出来ない。だけどこの片隅ではこんな人たちがいて、こんな風に思ったり、沢山の断片が我々の前に現れて、どう組み合わせるかは映画を見た私たち次第なんだと改めて思い知らされた。この中にアメリカの映画が入っていることの意義が本当に大きいと思う」と述懐する。
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西﨑氏は「『オッペンハイマー』公開前には色んな意見があり、原爆投下の惨状を描いていないという指摘もあった。片渕監督のご指摘通り、1本の映画にすべては入れ込めない。逆に、オッペンハイマーが現状報告に目を逸らしてしまうところがとても映画的で好きだ。この映画は原爆のことをオープンに話せる土壌となる意味で大きな役割を果たしていると思う」と力説し、片渕監督もアメリカの視点で「反対側から描く」ことに意義があるとコメント。
そして、西﨑氏が「片渕監督が『この世界の片隅に』を作られたとき徹底的にリサーチされたのと同様、ノーラン監督も真剣に取り組んでいる。オッペンハイマーの演説シーンに自分の娘を起用したり、核兵器が使用されたら顔族がどうなるかを自分ごととして描いている。映画には描かれていない何十倍ものリサーチをして、学んだ上で自分ごととして向き合われたのだと思う。『オッペンハイマー』に触発されて、ヒロシマを描く映画製作の発表が続いており、今後も映画の力を信じたい。そして、今度こそ広島で何が起こったかを考えていただける機会になる」と続けた。
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片渕監督は「世界の中に色んな事があるが、こうの史代さんが作られた『この世界の片隅に』の題名の通り、1つの映画で描かれることは片隅、片鱗でしかなくそれ以上のことは描けないが、その中に関わりがあることが潜んでいて、いつか結びついたときに世界の形が見えてくる。それが意義深いとこだ。沢山の片隅を集めることが出来るのは私たち自身だと思う」と述べ、イベントの結びでは、片渕監督が8月という広島にとって特別な時期に『オッペンハイマー』がこれからも上映され続けることになったら良いと思う」と期待を込めた。
「オッペンハイマー」は、全国の劇場でアンコール上映中。
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