【インタビュー】杉咲花、心の機微を手繰り寄せながら突き進む俳優道
2024年6月21日 13:00
「市子」「52ヘルツのクジラたち」と、観る者から感情を引きずり出すような熱演をみせ、ますます覚醒した感のある俳優・杉咲花。彼女の次なる主演映画は、「孤狼の血」で知られる柚月裕子による異端の警察小説の映画化だ。「帰ってきた あぶない刑事」がスマッシュヒット中の原廣利監督が手掛けた「朽ちないサクラ」(公開中)は、警察の広報職員を主人公にした物語。
学生時代からの友人であり、記者の千佳(森田想)との談笑中、うっかり警察の内々の話を漏らしてしまった泉(杉咲花)。口止めするも、その後に千佳が勤める地元新聞からスクープ記事がすっぱ抜かれ、署内は大混乱に陥る。「私じゃない」という友の言葉を信じられない泉だったが、別れた後に千佳が遺体で発見されたと聞き愕然。悔恨と喪失を抱えながら、真相究明に乗り出す。
聖人君子的なものとは一線を画す人間くさい主人公を杉咲花はどのように捉え、演じていったのか。そして彼女自身はいま、何を想いどこに向かおうとしているのか。二つの側面から話を伺った。(取材・文/SYO)
確かにそうした共通項はあるかもしれません。ただ、改めて「自分がどこに惹かれたか」を考えたときに出てきたポイントという感覚のほうが強くて。判断の基準にしていたわけではありません。どちらかとうと、演じるうえでは「一人の人間として気持ちや行動に筋が通っているか」ということに重点を置きたい気持ちがあります。物語を動かすきっかけになる(役割を持った)セリフやアクションであったとしても、そこに人物の軸がブレずに存在して、血が通っていてほしいという気持ちがあるので、極力客観的な眼差しを持つことを心がけていたくて。
「朽ちないサクラ」は、失敗してしまったことを肯定も否定もせず、正面から描いているところが私は好きです。泉という人物のことを好きになれない方もいるかもしれませんが、「好き」や「嫌い」ではないところで、どういう風にこの人物を見つめるのかということを問われている作品なのではないかなって。
泉は、じりじり燃えていくというよりは一気に発火するような瞬発的な気持ちの変化で、行動を起こさずにはいられなくて、違和感を覚えたときや何かが小骨のように引っかかった感覚になったときにどうにかせずにはいられない人ではないかと、私自身は捉えていました。そうした彼女の本質が、千佳(森田想)に起こった事件等がきっかけであぶり出される数カ月を描いたのが「朽ちないサクラ」という物語という意識でした。
そういったなかで、富樫さん(安田顕)との終盤のシーンはもう少しだけ冷静になって対話をしに行こうとするシーンだと思っていて。
撮影では原廣利監督がシーンの最初から最後まで一連で通すというやり方をされていたため、テイク数も重ねました。私は同じお芝居を繰り返すことで鮮度が失われていってしまうタイプだという自覚があるので、すごく緊張していました。
そうですね。自分自身も、ある種の当事者である感覚があります。今現在の社会は本当にたくさんの情報であふれていて、これからどうやって生きていきたいかを突きつけられている時代だと思っていて。考えなくても事が運ばれていく現状に不便を感じずに生きることもできるかもしれませんが、立ち止まって考える必要性を抱いています。
原さんはもっと引いたところから、一枚絵で見たときに美しいかどうかに注力されている印象がありました。内面的なものに関しては、各キャストに託されていたように感じます。
こういった関わり方は自分にとって最近のことなんです。近年関わる作品や人との出会いから自分がどうものづくりに関わっていきたいかが少しずつ明確になってくるなかで、本作はそのはじめの一歩を踏み出そうとしていた時期、という感覚です。
物語に関わっていると、自分自身がこれまで経験してきたこと、価値や怒り、孤独を感じたことを頼りに物事を考える機会がたくさんあって。いま入っている現場でも議論が生まれますが、そんな中で誰かの言葉を聞いてハッとさせられる瞬間は、同時に自分の未熟さを実感する時間でもあって。作品に関わることで自分の人生にもフィードバックがある。大切な気づきをいただいてばかりだと感じます。
効率がいいとは言えませんが、そちらを選んだ方が作品がよくなるのならとことん時間を割きましょう、と言って下さる方が自分の周りに残って下さっているような気がします。
そうですね。でも、それを知らなかった頃には戻れませんし、恐れずに進んでいきたいです。自分自身がそちらを望むなら、まずは私自身がもっと変化していかないといけない、という焦りもあります。
自分の表現方法としては、ほとんど変わりはありません。
変わってきていると思います。受け手のことを信じてくれているように感じられる物語に出合えた時は嬉しいですし、自分もそんな物語に携わっていきたいという気持ちが増してきていて。
最近は「アンメット」の現場で実際のお医者さんのお話をお聞きしたり、ドキュメンタリー映像を観るなかで、やっぱり実在する人々に敵うものはないなと改めて感じて。たとえば緊迫しているときに、人はどれくらいその状態を言語や感情で表すのだろうと考えると、抑え込もうとすることのほうが多いように感じます。そういった生活者たちの心の機微をキャッチしながら、手触りを感じられるものづくりにこれからも関わっていきたいです。
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2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した一作。1969年を時代背景に、何者かになることを夢みて若松プロダクションの門を叩いた少女・吉積めぐみの目を通し、若松孝二ら映画人たちが駆け抜けた時代や彼らの生き様を描いた。門脇むぎが主人公となる助監督の吉積めぐみを演じ、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」など若松監督作に出演してきた井浦新が、若き日の若松孝二役を務めた。そのほか、山本浩司が演じる足立正生、岡部尚が演じる沖島勲など、若松プロのメンバーである実在の映画人たちが多数登場する。監督は若松プロ出身で、「孤狼の血」「サニー 32」など話題作を送り出している白石和彌。
若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇。 熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。 前作に続いて井浦新が若松孝二を演じ、木全役を東出昌大、金本役を芋生悠、井上役を杉田雷麟が務める。前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた。
19世紀イタリアで、カトリック教会が権力の強化のために7歳になる少年エドガルド・モルターラを両親のもとから連れ去り、世界で論争を巻き起こした史実をもとに描いたドラマ。 1858年、ボローニャのユダヤ人街に暮らすモルターラ家に、時の教皇ピウス9世の命を受けた兵士たちが押し入り、何者かにカトリックの洗礼を受けたとされるモルターラ家の7歳になる息子エドガルドを連れ去ってしまう。教会の法に則れば、洗礼を受けたエドガルドをキリスト教徒でない両親が育てることはできないからだ。息子を取り戻そうとする奮闘する両親は、世論や国際的なユダヤ人社会の支えも得るが、教会とローマ教皇は揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとはせず……。 監督・脚本は、「甘き人生」「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」「シチリアーノ 裏切りの美学」などで知られるイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ。教皇ピウス9世役はベロッキオ監督の「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」にも出演したパオロ・ピエロボン。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
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