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黒沢清監督「“リアリティ”という言葉ほど怪しい言葉はない」 教え子・濱口竜介監督と「蛇の道」を語る

2024年6月17日 19:00

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濱口竜介(左)、黒沢清(右)
濱口竜介(左)、黒沢清(右)
(C)2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA

柴咲コウが主演し、「スパイの妻 劇場版」の黒沢清監督がメガホンをとる映画「蛇の道」(公開中)の公開記念トークイベントが6月16日、角川シネマ有楽町で行われ、黒沢監督と濱口竜介監督が登壇した。濱口監督は、黒沢監督が東京藝術大学大学院で教鞭をとっていた時の教え子であり、「スパイの妻 劇場版」では脚本を務めている。今回のトークイベントは、師弟関係の2人だからこその興味深い内容となった。

本作は、黒沢監督が自身初の試みとなるセルフリメイクに挑戦した作品。26年の時を経て、国境を越えて蘇ることになったのは傑作サスペンス「蛇の道(1998)」だ。

8歳の愛娘を何者かに殺されたアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は、偶然出会ったパリで働く日本人の心療内科医・新島小夜子(柴咲)の協力を得ながら、犯人探しに没頭。復讐心を募らせていく。だが、事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁し、彼らの口から重要な情報を手に入れたアルベールの前に、やがて思いもよらぬ恐ろしい真実が立ち上がってくる……。

画像2(C)2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA

まずは濱口監督がオリジナル版への思いを明かしつつ、本作の感想を語った。

濱口監督「もともとオリジナル版も大好きだからこそ、本当に“世界で1番嫌な話”だな、と! はじめてみた時に、なんでこんな嫌な話が存在するんだろう、と思いながらみておりました(笑)。でも一方で、なんだか奇妙な爽快感があるんです。このリメイク版も、皆さんにどの程度同意していただけるかわからないけれど、やっぱりある種の“爽快感”“突き抜け感”のようなものを強く感じました。何があろうと物事は淡々と進行していく、という厳然たる事実みたいなものを見せつけられるような思いだった」

そんな濱口監督は「まずは天気の話を」と、映画に登場する小夜子の部屋でのルンバが掃除をするシーンについて「あの場面で彼女のルンバに光が差してきますが、あの場面では照明をあてているのでしょうか。」と質問した。

黒沢監督「ルンバがどこへ行くか分からないので、何テイクか撮影していて。ずっと追っているうちに自然に光が入ってきたぐらいで、あまりこちらで仕組んだりはしていません。小夜子という人物の日常が、わずかに垣間見える場面。普段彼女は何をしているのかな、と考え続けた挙句たどりついたのが“普段1人の時は何もしてない”ということ。それをどう表現するか考えた時にルンバを思いついて即フランスのスタッフにルンバがあるか聞いたんです!」

さらに濱口監督が「最後の場面もすごく綺麗な光が差し込んでいますね」と話すと、黒沢監督は「(この場面も)全く何も照明を当てていないわけではないですが、自然の光を最大限に生かしています」と回答。濱口監督が「明確にこの映画にふさわしい光が入ってるっていう感じがあります」と応じる等、監督同士ならではの視点でトークを展開していく。

画像3(C)2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA

続けて、濱口監督が「黒沢監督にとって“偶然”というのはどの程度大事なものなのでしょうか。偶然に頼るというよりも、黒沢監督は作り込んでいくスタンスなのかなと思ったのですが」と問いかけた。

黒沢監督「そんなに作り込んでないです。偶然、晴れてたら晴れてる。雨が降ったらそのままでいいんだと。今のデジタルの技術では、雨が降っていても晴れてるみたいに変えられるんです。ただ僕は、現場の偶然性を活かす方が好みなので、撮影時の現場の天候はなるべくいかす方向で、でも少しだけいじる、という感じで作っていったと思います」

また、濱口監督が「進行させようと思っている物語に奉仕するかどうかよりも、現場で起きたことが1番信頼できる、現場でおきたことに従いたい、というのが基本なのでしょうか」と尋ねると、黒沢監督「映画とはなんだろう、という難しい質問ですね」とゆっくり言葉を選びながら、こう答えた。

黒沢監督「僕が古い人間だからなのかもしれませんが、撮影現場でおきたことは、一回一回が非常に貴重なものなので可能な限り大切に、という考えが染み付いてるんです。予算のないフィルムで撮影していた世代は、大体そうだったんです。フィルムで撮ったものは加工もできない、フィルムも勿体ないのでそう取り直しもできない。1回限りのフィルムに、映像として記録されたものは神聖であるという考えが、もう染みついてるんです」

さらに濱口監督は柴咲コウダミアン・ボナールの演技について「柴咲さんは、きっと勘のいい人なんだろうな、という感じがします。余計なことが一切なくその場にいて、威厳を持ってこの映画の中に存在している、と感じました。ダミアン・ボナールさんも、急に笑い出す場面は、狂気を感じました」と述懐した。

画像4(C)2024 CINEFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA
最後に「改めて私も未だに1人の生徒として伺いたい」と濱口監督は「“劇映画とリアリティ”というのはどう付き合っていけばいいんでしょうか」と質問を投げかけると、黒沢監督は「わりとどうでもいい(笑)」ときっぱり。
黒沢監督「あることを凄く変だという人がいれば、“あるある”と共感する人もいる。“リアリティ”という言葉ほど怪しい言葉はないんです。監督が信じる、ある種のリアリティみたいなものはやはりワンカットごとに追求して行くべきなんだろうと思います。それが、その映画の個性になっていくんじゃないでしょうか……また講義みたいになってしまった」

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