【「異人たち」評論】孤独を見据えつつも愛の力(パワー・オブ・ラブ)を鮮烈に謳いあげる、監督のパーソナルな思いが滲む作品
2024年4月21日 07:00
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本作は山田太一の小説、「異人たちとの夏」が原作ではあるが、現代のロンドンを舞台にした大胆で、とても私的な脚色に驚かされる。主人公が両親を事故で無くしたという設定はそのままながら、離婚をして一人息子とも疎遠でいる孤独な中年を、アンドリュー・ヘイ監督は人と密な関係になったことのないゲイの男性に替え、ふたりの男が出会う濃密なドラマに仕立てた。
心に空洞を抱えた40代の脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)は、住人の気配がない静かなマンションで、子供の頃に亡くした両親の物語を書いている。そんなとき、階下に住むミステリアスな隣人ハリー(ポール・メスカル)が尋ねてくる。いきなり親密なアプローチを取る彼に、アダムは戸惑う。
一方、本のリサーチのためかつての実家を訪れたアダムは、そこに当時のままの若い両親の姿を目にする。押し寄せる感情と郷愁に、まるで子供に戻ったかのように振る舞うアダム。両親もまた、そんな彼を優しく受けとめる。やがてその家に通うにつれ、彼はハリーにも心を開いていくようになるが。
アダムの固まった心の原因は、親を早くに亡くしたのだけが理由なわけではない。彼は「それ以前から孤独だった」のであり、自分が他人と馴染めなかったこと、ゲイであることを含めさまざまな恐れが自暴自棄をもたらし、人生に希望を持つのをやめていた。果たしてそんな人間に、転機は現れるだろうか。だがハリーもまた、彼と似た者同士だったからこそ、その痛みを共有することができる。
本作で重要な小道具として使われているのが、1980年代にとりわけホモセクシュアルの人々のあいだで人気を博したイギリスのバンド、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのヒット曲、「パワー・オブ・ラブ」だ。アダムが若い頃に聴いたフェイバリット・ソングという設定だが、その力強い歌詞には、おそらくヘイ監督自身の思い入れがあるのだろう。ハリーとアダムは、合言葉のようにこの歌詞を口にする。「フードを被った奴らから君を守り、吸血鬼も追い払う」「何があっても僕が君を守る」。この歌はまさに、ふたりにとっての愛の賛歌なのだ。
もっとも、本作が観客をそのセクシュアリティによって選ぶような作品だとは思って欲しくない。孤独と、誰かを必要とする気持ちは普遍的なものだから。実際、「パワー・オブ・ラブ」が流れるラストシーンを観ながら、ふいに胸の奥から感情が込み上げるのを禁じ得ない観客は、少なからずいるのではないだろうか。あまりに切ない幕切れは鮮烈で、これほどまでに純粋に自身の気持ちを曝け出したヘイ監督の思いに、震える。
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