【「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」評論】テレビでは見られない舞台に懸ける芸人たちの悲喜こもごもが笑いと涙を誘う
2024年3月10日 14:00

テレビのバラエティ番組やラジオ番組、近年はYouTubeチャンネルやSNSなどで世の中に日々笑いを届けている芸人たち。自身の名前やコンビ名を冠した番組やレギュラー番組の本数、また視聴率でその実力や人気、知名度の高さが測られているように見えるが、それは芸人の真の姿の一端でしかないことが本作を鑑賞すると再認識できる。
2023年に一般社団法人・漫才協会の第7代会長に就任した人気お笑いコンビ、ナイツの塙宣之が自ら初監督を務めたドキュメンタリー「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」は、その漫才協会のPR映画にとどまらない作品となっている。冒頭、その活動拠点である浅草東洋館の舞台を雑巾がけする塙の姿が映し出され、舞台中央にサンパチマイクを立てて、その舞台上でひと休みする塙が、何かに思いを馳せるかのようにゆっくりと目を閉じるところからはじまる。
浅草フランス座演芸場東洋館は、渥美清や萩本欽一、ビートたけし(北野武)らを生んだ伝説の劇場として有名だが、実際に足を運んだことのある人は相当なお笑い好きや漫才・落語通であろう。近年はナイツらの活躍で再び知名度が上がっているものの、本作のインタビュー中にお笑いコンビ、爆笑問題の太田光が「墓場だと思っていた」と述べているように、テレビで活躍する売れっ子芸人たちや若手からは、ベテラン芸人(師匠)の多い漫才協会に加盟することや東洋館の舞台に立つことが避けられていた時期もあった。
だが、そんな時期も含めて、200人以上が所属する漫才協会の芸人たちは連日舞台に立ち続けている。事故で右腕を失いながらも舞台復帰に向けてリハビリに励むベテラン、39年間コンビを組んだ相方を亡くしてもなおピン芸人として舞台に立ち続ける者、離婚後も同居を継続しコンビで舞台に立ち続ける男女、そして結成3年の若手コンビなどをカメラは追い、そこにはテレビでは見られない舞台に立つ芸人のドラマが立ち上がってくる。
さらに、青空球児・好児、おぼん・こぼんといった伝説の師匠、U字工事をはじめ、錦鯉などのテレビで人気の漫才コンビ、協会外からも爆笑問題、サンドウィッチマン、ビートきよしなど、数多くの芸人たちも登場して語る。そして、小泉今日子とナイツの土屋伸之によるナレーションとともに、ナイツの師匠でもあり、最後まで舞台に立ち続けることにこだわった漫才協会第5代会長・内海桂子への思い、舞台に懸ける芸人たちの悲喜こもごもな姿が笑いと涙を誘う。
吉本興業が提供する関西のお笑いや漫才、芸とは異なる、関東流の漫才や落語、お笑いの歴史や系譜を知ることができる。そして、人を笑わせることの難しさと快感、笑いによって人生を救われた者の思いや、芸人としてしか生きられない者の生き様をスクリーンで目の当たりにすると、メディアでの人気がすべてではない、芸人として“舞台”に立ち続ける真の意味が伝わってくる。漫才協会を盛り上げようという塙監督の飄々とした情熱が詰まった“映画”に仕上がっている。
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