ホスト殺人未遂事件、盲目的な愛の行方は…「熱のあとに」 二村ヒトシ「どろどろした心の地獄を描くセンスがすごい」と絶賛、映画.com編集部とトーク
2024年2月28日 14:00

TOKYO FMほか全国38のFM局のオーディオコンテンツプラットフォームで、スマートフォンアプリとウェブサイトで楽しめるサービス「AuDee(オーディー)」 と映画.comのコラボ新番組「映画と愛とオトナノハナシ at 半蔵門」。作家でAV監督の二村ヒトシと映画.com編集部エビタニが映画トークを繰り広げる。
今回の作品は、橋本愛主演、2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得た「熱のあとに」。自分の愛を貫くため、ホストの隼人を刺し殺そうとして逮捕された沙苗。事件から6年後、彼女は自分の過去を受け入れてくれる健太(仲野太賀)とお見合い結婚し、平穏な日常を過ごしていた。しかしある日、謎めいた隣人女性・足立が沙苗の前に現れたことから、運命の歯車が狂い始める――という物語。
開口一番、「橋本愛さんが怖かった」と二村。エビタニも「橋本さんの熱を帯びない顔が美しいゆえに人間離れしていて、この役に合っていた」と、ホストを盲目的に愛し、ホストクラブ通いのために風俗で働き、最後は思いつめた行動に出てしまった主人公の早苗を演じた橋本の熱演を称える。
「実際の事件の加害者が刑務所に入っている間に映画にしてしまうのはどうなのか?と思うのですが、これは未来を予想する作品で、ものすごく広がりがあって、なぜ事件が起きたのかの謎解きではないのがよい」「俳優さんの演技、場所の選び方が素晴らしい。元の事件は歌舞伎町だけれど、舞台を東京から少し離れた場所にし、自然の中で暮らす人たちの中にある、どろどろした心の地獄を描くセンスがすごい。そしてラストに何も終わっていない」とその構成に舌を巻いたという二村。エビタニも「映画には結末があるけれど、人生には結末がなくて、そこを描いている」と今作の設定を説明する。
山本英監督の商業映画デビュー作であり、坂元裕二氏に師事したイ・ナウォン氏が脚本を手掛けた。「途中で翻訳したかのようなセリフがよかった。言葉が素直じゃないところが哲学的論争になっていた」「次のシーンにつながるセリフを省略している。説明を飛ばしている感じがぐっと来た。見ていて気持ちよく、そして気持ち悪かった。映画の見せ方として素晴らしかった」(二村)、「早苗は口に出す言葉が、考え抜いた言葉だと思う。それがマッチしていた」「トラックで健太(仲野太賀)のセリフがよかった。ああいうことを言う人でないと早苗は結婚しないと思った」(エビタニ)と、セリフと場面転換についても言及する。
ふたりは様々なシーンから、それぞれの登場人物の背景や心情を推測し「人にしたことは自分も同じ目に合う、それは恋愛のセオリーだと思う。相手は同じではない人ではないこともあるけれど、往々にして繰り返される。同じことを繰り返すこともあり、真逆のことをしたりされたり、同じパターンを繰り返す。それが恋愛という心のシステム」「心をかき乱されること恋がなのか、かき乱されないことが幸せな恋なのか、それは僕がずっと書いてきたこと」「傷ついて、何かを失って違う人間になるために人は恋をする」と二村は恋愛についての哲学を語る。
エビタニは「愛について話しているけれど、生きるとはなにかを描いている。早苗は狂おしいほど愛しているから生きている実感が持てている。でも夫にとっては殺すほどの愛がなくても、一緒に生活するのが愛。早苗のように偏りが強い人といると生きることが乱されるんだな、と思った」「水と木の対比がたくさんあったと思った。水が溺れる愛の象徴で、木は育てる愛の象徴だったのかも」と考察し、二村は「何にも説明しない映画なので、解釈はいろいろ。今、上映もしていますが配信に来たら何回か見返すでしょう」とリピート鑑賞を誓っていた。
トーク全編はAuDee(https://audee.jp/voice/show/55260)で聞くことができる(無料配信中)。次回は、アリ・アスター監督最新作「ボーはおそれている」を取り上げる。
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