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第74回ベルリン国際映画祭 黒沢清、工藤梨穂の中編や想田和弘、朴壽南と実娘のドキュメンタリー上映

2024年2月24日 13:00

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黒沢清監督と工藤梨穂監督
黒沢清監督と工藤梨穂監督
(C)Kuriko SATO

第74回ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門で、現地時間の2月20日、工藤梨穂の中編「オーガスト・マイ・ヘヴン」と、黒沢清監督の中編「Chime」(読み:チャイム)がカップリングで上映された。

両作品は企画会社Sunbornが発案し、Roadsteadが製作に加わり、DVT(デジタルビデオトレーディング)プラットフォーム・Roadsteadにて独占販売が予定されている。いわゆる動画配信でもDVDでもなく、具体的には会員がRoadsteadのオンラインで「視聴権」を購入し、オンライン上の「所有者」となる仕組みだ。こうした試みの作品が、国際映画祭で上映されるのは珍しいと言えるだろう。現地では両監督の他、俳優陣の吉岡睦雄関幸治諏訪珠理藤江琢磨らも参加した。

はじめに上映された工藤作品は、誰かになりかわる「代理出席屋」を引き受けるヒロインの譲(村上由規乃)が、馴染みの食堂の店員と親しくなるが、偶然にも彼のかつての親友は、彼女が代理業で同級生を演じた男だった、という物語。そこから奇妙な3人のロードムービーが始まる。何かが欠落した感覚や、人間関係の浮遊感は、日本におけるいまの時代の気分を反映していると言えるだろうか。

一方、黒沢監督作品は、いかにも彼らしいホラー映画。主人公の松岡が講師として働く料理教室で、ある日生徒のひとりが「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と言い出す。それから数日後、この生徒の症状はさらに悪化し、教室にパニックをもたらす。

満席となった会場で両監督は舞台挨拶に立った。工藤は本作を作った理由について、「旅をすることと映画を作ることが、自分のなかで深くリンクするところがあって、旅のなかで人の繋がりや絆を描いていきたいという思いがありました」と語った。

画像4(C)Kuriko SATO

一方、黒沢は「上映の順番が逆なら爽やかに終われたと思うのですが、僕の作品が後になって、嫌~な感じで終わってしまってすみませんでした」と語り、会場の笑いを誘ったのち、「僕はこれまでも何度かホラー映画を作ってきましたが、一本の映画となると、映画としてのいろいろなルールを考えてしまうのですが、一度でいいからそういったルールにとらわれない自由な映画を作ってみたいと前々から思っていました。今回はふつうの映画より短くていいので自由に作ってくださいと言われ、とても新鮮で楽しかったです。45分というのは軽やかで、一種の自由のようなものを感じながら撮影していたように思います」と、新しい体験について明かした。

今年のベルリンでは他にも、想田和弘のドキュメンタリー「五香宮の猫」がフォーラム部門で、在日朝鮮人の朴壽南(パクスナム)監督と実娘の麻衣監督によるドキュメンタリー「よみがえる声」が、フォーラム・スペシャル部門で上映された。

画像3(C)Kuriko SATO

ベルリン常連の想田監督は、プロデューサーでパートナーの柏木規与子と、和やかなQ&Aを開催。長年住んだニューヨークを離れ、ふたりで3年ほど前に移り住んだ瀬戸内市牛窓に住みつく野良猫たちを追った、「観察映画」について解説した。猫たちの日常を通して、地元の人々の暮らしやその横顔をも映し出し、大きな人気を得た。

画像2(C)Kuriko SATO

昨年10月の釜山国際映画祭で最優秀ドキュメンタリーに輝いた「よみがえる声」は、現在90歳近い朴壽南監督がかつて撮り溜めた映像を抜粋してまとめたものだ。戦時中や関東大震災で迫害にあった在日朝鮮人の体験を、当事者の貴重な声から明らかにし、見応えがある。朴監督親子は上映に立ち会い、Q&Aでは観客からの熱心な質問が飛び交った。朴壽南は車椅子ながら矍鑠(かくしゃく)とした様子で、「次回作は企業秘密です」と言いながら、引き続き制作に意欲をのぞかせていた。(佐藤久理子)

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