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【「ゴースト・トロピック」評論】自宅まで歩いて帰る。ただそれだけのことなのに、心が揺さぶられる佳作。

2024年2月4日 23:00

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「ゴースト・トロピック」
「ゴースト・トロピック」
(C)Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production

冒頭、定点カメラで映し出されるのは整えられた居間である。窓から陽光が差し込んでいる。時間の経過と共にその部屋はゆっくりと暗くなっていく。

静謐な居間の映像に重なって「この空間を私たちの人生で埋める。骨の折れる大仕事だ。私が知る中で一番辛い仕事。この空間を見ると、この大切な苦労が見える」と女性がそっと囁く。おそらくこの部屋の主だ。その声は「もし突然、赤の他人がこの部屋に入ってきたら、その人は何を見て、何を聞くだろう。ここで何を感じるだろうか。(その時)私は恥を感じるだろうか」と続く。

移民である主人公はビルの清掃人をしている。仕事仲間との休憩、居合わせた誰もが笑っている。皆が一息着いた後も彼女だけ思い出し笑いが止まらない。仕事場を後にして人通りが少なくなった帰宅の途、彼女は地下鉄駅の手前で一枚の広告に目を留める。南国の景色に「見知らぬどこかへ」と記されている。誰もいないホームに電車が滑り込んでくる。空席が目立つ車内で窓側の席に座る。疲れているせいか、笑いすぎたからか、彼女はうたた寝をしてしまう。

ヨーロッパの中心に位置するベルキーのブリュッセルには複雑な歴史があり、様々な人々が生きている。この街を舞台にしたバス・ドゥヴォス監督の「ゴースト・トロピック」(2019)は、寝過ごしたために終電に乗れず、歩いて自宅に帰る女性の一夜を描く。

ヘッドスカーフをかぶる彼女がどんな人物なのか一切の説明はない。だが、ゆっくりと歩いて自宅へと向かう途上で出会う人々との言葉少ないやりとりで、この地で暮らすようになったいきさつや家族のこと、前職は家政婦として働いていたことなどが分かってくる。

主演のサーディア・ベンタイプは、寡黙でありながら表情の微妙な変化で移民として生きる女性の今を表現する。彼女が出会う人々に扮した俳優たちの自然体の演技も新鮮だ。アコーステイック・ギターの音色と時折挿入される鳥のさえずりも耳に残る。そして撮影監督グリム・ヴァンデケクホフによる、16ミリファルムで撮影された質感の高いポエティックな映像が、84分間の濃密な映像体験として至福の時間をもたらす。

地下鉄の終着駅から自宅まで歩いて帰る。ただそれだけのことなのに、移民としてこの地で生きてきた彼女の今がつぶさに伝わる。そしてはたと気づかされる。早朝から夜遅くまで働く彼女には、居間で寛ぐ時間がどれだけあるのだろうか、と。生きることの切実が、「この空間を人生で埋める。骨の折れる大仕事」だという声に重なり心が揺さぶられる佳作である。

サーディア・ベンタイプは、昨年のベルリン国際映画祭で初披露されたバス・ドゥヴォス監督第4作「Here」(2023)にも出演している。その姿を目にしたとき、懐かしさにも似た得も言われぬ安堵感に包まれた。ぜひ、同時公開される2作品合わせてお楽しみいただきたい。

(高橋直樹)

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