【「燈火(ネオン)は消えず」評論】“香港映画の灯を消さない”という願いと決意に彩られた名優コンビによる感動作
2024年1月14日 19:00
1980年代から90年代の香港映画を見てきた世代、あるいは一度でも香港を訪れ、その“輝き”に魅了されたことがある人にとって「燈火(ネオン)は消えず」は、胸が熱くなる作品である。「私のプリンス・エドワード」「少年たちの時代革命」「縁路はるばる」「星くずの片隅で」「香港の流れ者たち」といった新しい世代による香港映画がコロナ禍前より生み出されている流れの中で、「過ぎゆく時の中で」などの名女優シルビア・チャンが主演し、製作にも名を連ねて本作を作った価値は高く、その意義は大きい。
香港といえば“100万ドルの夜景”が有名だったが、その夜景の象徴、主に繁華街のビルから通りに突き出て重なるように香港を彩っていたネオン(燈火)サインの看板は、2010年の建築法等改正以来、なんと2020年までに9割も撤去されて姿を消したという。近年はガラス製のネオン管より、アクリル製で割れにくく、経済的で使いやすいLEDネオン風サインが世界的に主流となった流れも大きく影響しているが、それによって高度な技術が必要なネオン管の職人は激減し、香港の独自の文化がまたひとつ消えつつある。
そんな状況を憂うかのように本作は、もう一度ネオンを輝かせたいと、ネオン職人だった夫の死後に妻が奮闘する姿を描いており、夫婦愛とともに香港への愛に溢れた映画だ。昔気質のネオン職人だった夫ビルを「エレクション 黒社会」などの名優サイモン・ヤム、そしてその妻メイヒョンをシルビアが演じ、香港映画ファンには垂涎の共演を果たしている。2人の過去の出演作や80年代から90年代の香港映画の名シーンがネオンに重なって見えてくるようだ。
メイヒョンは失意の中で、古き佳き時代のネオン管を愛した夫との馴れ初めや思い出を振り返るが、SARS(重症急性呼吸器症候群)が香港を襲った時に、ネオンの仕事を廃業させたことを後悔していた。そんな時、ビルが生前やり残したことがあることをビルの弟子だったという若者から聞かされる。それをやり遂げようとするが、ひとり娘からは香港を離れて海外に移住すると打ち明けられてしまう。
この物語は、1997年にイギリスから中国へ主権移譲、返還され、2000年以降に徐々に勢いを失っていった香港映画界の状況とシンクロしてくる。看板への規制が続く香港には今も「その灯を消さない」と奮闘するネオン職人たちがおり、レトロなネオンに魅せられる若者も増えているという。そしてそれは、全盛期のような自由のある映画製作が難しくなった中でも、香港映画人が新しい世代とともに「香港映画の灯を消さない」という決意と重ねて見ることができるだろう。香港映画は“かつての輝きを失った”と言われることもあるが、本作がその“灯”は消えていないことを証明しているようで、ラストのサプライズが映画ファンの思い出を照らしてくれる。
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