ガザのビーチでサーフィンする人たち、今はどうしているんだろう?【映画.com編集長コラム】
2024年1月10日 17:00
2024年、日本では能登半島の地震に羽田空港の事故が続き、お正月気分もすっかり吹き飛んでしまいました。ニュースに映る現地の模様に心を痛める日々が続いています。
それと並行して頭によぎっているのは「戦争」のこと。ガザやウクライナで進行中の戦争は、果たしていつ終了するのか。終了するとしたら、どんなシナリオが想定されるのか。東京で平和に暮らしている身としては、あまりイメージが湧きません。残念ながら。
そんな新年に、この「ガザ・サーフ・クラブ」を見ました。今、まさに激しい戦闘が繰り広げられているイスラエルのガザ地区に、かつてサーフィンを楽しむ人々がいました。「かつて」と書いたのは、2024年の1月現在、このサーフクラブがどうなっているのか分からないからです。Facebookにあるサーフクラブのアカウントも、2019年1月以降更新がありません。
映画の製作年は2016年です。今から7年ほど前のガザの街並みを見ることができますが、それは私たちがニュースで見る現在のガザとさほど変わらない。ビルは崩れ、瓦礫の山が街のあちこちに積み上がり、道路は穴だらけです。2023年10月、ガザ(ハマス)によるイスラエルへのテロと、それに対するイスラエル軍の容赦ない報復攻撃によって、ガザは一躍その知名度を上げました。しかし、実際にはずっと前から戦争状態にあるんだということが、この映画から否応なしに伝わってきます。
そんな戦地、ガザでサーフィンを楽しむ人たちが存在するというのは、かなり特異な感覚を呼び起こします。
「そもそも、地中海のどん詰まりのガザ(およびイスラエル)で、サーフィンできるほどの波が立つのか?」素朴な疑問が浮かびます。しかし本編に映るビーチを見る限り、かなりいい感じの波が来ています。これはサーフィンしたくなる気持ちも十分に理解できる。
となると、次の感慨は「屋根のない監獄」と言われるガザ地区で、海の上で存分に波乗りするというのは、この上ない解放感を得られる究極のレジャーなんだろうな、となります。俄然、登場人物(ガザのサーファーたち)を応援したくなる。
イブラヒーム君という主人公を中心に、年長のベテランサーファーや、その娘たちが登場します。イスラムの女子が海で遊ぶことの難しさ、例えばスカーフを頭に巻いてサーフィンしていたら、首に巻き付いて窒息しそうになった、などが印象に残ります。しかし彼女たちは前向きです。大人たちの叱責や諌言にもめげず、海に漕ぎだしていきます。
イブラヒーム君は、サーフボードの調達もままならないガザにおいて、そのサーフィン事情を改善し、市場を開拓しようと、アメリカ人のサーファーに協力を求めます。そして、そのやりとりと当局との折衝の先に、映画の大きなカタルシスが現出するのです。
イブラヒーム君の、人生を変える旅が始まります。まったく予想だにしない展開に、見ている側も心が躍ります。マットというアメリカ人のサーファーから、サーフィンのあれこれを伝授してもらう日々。イブラヒーム君の充実の表情が見る者の共感を呼び、彼の旅は終わりに向かいます。
しかし、最大の衝撃はエンドロールの手前に挿入された、一枚のテロップでした。
もちろん、その内容はここに記しませんが、この映画は、実に実に複雑な余韻を残す一本です。
「ええっ! そうなの? それでいいの?」2016年ならそう思ったことでしょう。しかし、今なら「まあ、そっちが正解かもね。葛藤するよね」の方がしっくりくる。
本編を見終わって、イブラヒーム君のフルネームでGoogle検索してみました。2016年の映画完成のタイミングで、彼はインスタグラムにいました。この映画のキービジュアルとともにポストされた、彼の写真を見ることができました。しかし、ここ2年ほどはポストもなく、2024年になって非公開になってしまいました。彼の近況が無性に気になるし、映画に出てくるガザの人々のその後も気になる2024年1月です。
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