この舞台で開幕当初からトリプルキャストのひとりとしてハリー役を演じ、1年後の23年7月にいったん卒業した石丸幹二が、24年1月よりハリー役にカムバックする。今回はその石丸と、開幕よりアルバス役を演じている藤田悠(福山康平とダブルキャスト)、23年8月よりスコーピウス役として踏み出した西野遼(門田宗大とダブルキャスト)の3人に話を聞いた。
まずは、それぞれの「ハリー・ポッター」との出会いについて話していただこう。
石丸:最初に出会ったのは舞台だったんです。舞台版は元々、前編と後編を2本の作品として上演する「二部制」で作られたのですが、たまたまニューヨークに行ったとき、タイミングが合ってマチネ(昼の部)とソワレ(夜の部)で前後編を続けて見ることができた。素晴らしいなと思ったのと同時に、舞台上の大人になったハリーを見て、「あれ、僕じゃないか!」と思ってしまった(笑)。前にも(映画版のハリーに)似ていると言われたことがあったんですが、「ホントだ、似てる」と思って。そこからハリーとの距離が急に近くなった。舞台作品として内容も深く、見事で。日本公演があるなら出たい、と強く思いました。
藤田:僕は中学生までイギリスに住んでいたので、まさに現地で、リアルタイムで体験しました。学校ではすごく話題になりましたし、小説の新しい巻が出ると、発売日に本屋さんに並んで買う同級生も多くて。やっぱり、話が次にどうなっていくのかまだわからないなかで映画を見に行くというのは、楽しみなイベントでしたね。
西野:僕は小さいころからテレビのロードショー番組とかで映画の「ハリー・ポッター」を全部見ていて。大好きでした。なかでも「不死鳥の騎士団」を親に「買って」と頼んで、そのDVDだけ持っていたんですよ。だからすり切れるほど見ていましたね。なぜ「騎士団」だったかというと、名前がカッコいいからというのもあるんですが(笑)、5作目でだんだんとグレーが濃くなっていく感じがして、ダークな部分が好きでした。
「ハリー・ポッターと呪いの子」は、映画ファンも舞台ファンも最大の満足を得られると断言できる作品だ。J・K・ローリングがどれほど「演劇の力」を信じて物語を書いたのかが、よくわかる。
石丸:僕はつい先日、ロンドンでまた舞台版を観てきたんですが、やはり観客の皆さんは「ハリー・ポッター」というアトラクションを体験するような感覚で見に来ているんです。扮装したりしてね。舞台上の登場人物たちと同じ空気の中で自分たちが魔法の世界を体験するという喜び、それが最大の魅力じゃないかな。一度この世界を知ると何度もリピートして見たくなると思うんですけれど、それは物語の終わり方が「綺麗」だから、じゃないかと思っています。
藤田:舞台のいろいろな手法を使うことで、あの世界観や魔法も、リアルに体感できますよね。映画と同じ世界なんだけど、映画と違って目の前で起きていることを直に感じられるから。「自分の身の回りにももしかして起きるんじゃないか?」みたいなことを錯覚して帰ってもらえると嬉しいなと思います。
石丸:黒子的役割を出演者に課しているシーンが多々あるんですよ。たとえばローブを翻すことによってシーンが変わるとか。これは目の前で魔法が起こっているように見える手法。実は、超アナログなんですけれども、演劇の力を信じて作っている。
西野:僕も初めて見たときにはビックリしました。
石丸:ちょっと前方の席に座っていると、スモークをマシーンで煙らせているとき、香りが嗅覚を刺激するんです。この世界の匂いみたいなものを、鼻が感じる。きっと「この匂い、ハリー・ポッターだ!」みたいな感じになると思うんです。あと、振動する舞台空間。タイムターナーを使って時空を動くときに、足元からズズズズズンと来るんですよ、振動が。
藤田:すごく揺れるんですよね。
石丸:そう。この足や耳の感覚もクセになっちゃうんです。もっと体感したい!ってなります(笑)。
魔法的な手法が驚きを呼ぶのはもちろんだが、「水」の使い方にもビックリさせられる。やっている方はどうなのか?
藤田:いやぁ、最初はやっぱり「舞台上で水の中に入るの!?」とビックリしていたんですが、もう慣れてくると本当に、逆にやりやすいというか。湖の中から課題が終わってバーっと出てきた、というところに違和感なく入り込めるんですよ、ちゃんと肌感としてそこに水があるから。演じている側の気持ちも高めてくれている。そういうことも計算して演出していたんだとしたら、すごいなと思います。
日本版の開幕から、約1年半。これだけ長い間演じていても「新鮮にできる」のは、ダブルキャスト、トリプルキャストのローテーションで組み合わせが日々違っていることも、大きな要因だ。では、“藤田アルバス”から見て、“石丸ハリー”はどんな父親なのか。
藤田:僕のなかの幹二さんは、すごくチャーミングな方なんです。それはおそらく、3時間40分もあるので随所に出ていると思うんですよ。でもだからこそ、逆にハリーが怒ったときの厳格な感覚、もうそれは不動という感じがして。ほかのハリーお父さんたちは付け入る隙がありそうなんですけど。幹二さんが「ノー」と言ったら、もう絶対「ノー」なんだって思う(笑)。だから、そのギャップみたいなものが、幹二さんハリーにはいちばんあるなと自分は感じています。一方で、幹二さんが演じているときは、お客さんが暖かくなっているのを感じるんですよ。客席が前向きに、やさしい気持ちで見てくれているなと。
では、石丸ハリーにとっての藤田アルバスは?
石丸:愛する息子です(笑)。真剣にぶつかってくるから、悠は。お互いの言葉のやりとりに嘘がないんです。だから舞台上で起こっている出来事に、ふたりともヒートする。しっかり傷つけ傷つけられるから、こちらも、言葉のひとつひとつにより責任をもっている感じです。「ハリー・ポッター」は映画を見ていても感じますが、先生とか親は絶対的に強いんですよ。そこを僕は、1月からのハリーでさらに見せようと思っています。
では、もうひとりのアルバス、福山はどうなのだろう。
石丸:キャラクターがまったく違うんです。康平には緻密な計算から来るセリフの持っていき方があって。だから、こちらも緻密に釘を刺していくんです。たとえば空気のような悠と違って、康平は豆腐みたいな実体があるんです。だから、お互いもっと密なところでのやりとりになってきますよね。豆腐なんて言っちゃいけないか (笑)。でもそうなんですよ。僕は頭を突っ込んでもがいちゃっているし、彼もブルブルともがいている。そういう状態です。そんな世界観を康平とは作っているかな。ふたりのアルバスは、全然違うからこそいいと思います。
藤田:ハリーとアルバスは似ているんですよね。でも、だから嫌、ってところもあったりして。相手が何を考えているかわかるから、めっちゃ挑発もしちゃう、みたいなところが多分あると思うんです。
石丸:この親子、沸点が低いんです。すぐイラッと来る(笑)。
藤田:秒でキレて。キレた後に気づくという過ちに陥りがちです(笑)。
石丸:ハリーが息子に言っちゃいけないことを言ってしまった後、悠のアルバスには「しまった!」と思いながら言い訳をするんです。その言い訳が、イラッとくるわけでしょう。で、康平アルバスには言い訳をしていないんです。正論のまま突き進んでしまう(笑)。
藤田:本当に、毎日演じていても、毎日が全然違うんですよね。天気がいいか悪いかでも、多分気持ちの始まり方が違いますし。重めに始まるのか軽快に始まるのか。自分の体調だったり、相手の体調だったり。人が変わると、それはもう全然変わりますから。
アルバスとスコーピウス、この共鳴し合うふたりの組み合わせも、見どころのひとつ。藤田アルバスにとって、西野スコーピウスは?
藤田:遼くんは明るい。カラッとしていてくれるんです。深刻なシーンでも割と、あえて元気でいてくれるみたいな感じがあるから、ドヨーンとふたりで悩むというよりは、悩んでいるアルバスを上げてくれるような感覚があります。あと、危なっかしさを感じているからこそ、「リードしてあげたい」みたいな気持ちが芽生えてくるんでしょうね。頼りにするところは頼りにしつつ、アルバスが引っ張る、みたいな感じが出やすいのかな。
幕開けから一緒にやっている門田スコーピウスと藤田アルバスとの組み合わせに「萌える」というファンも、大量に発生している模様。
藤田:宗大とはずーっと一緒にやってきているから、もう信頼しきっていて。信頼しまくった結果、もう絆がぐちゃぐちゃみたいな(笑)。ふたりの密度が濃くなりすぎていて、それが逆に裏目に出たり、よかったり、ということが舞台上で発生しています。
石丸:この間、本番を少しのぞきに行ったとき、ちょうど悠と遼のシーンで。そこに、これまで見たことのない悠がいたんです。「相手が変わるとこんなに変わるんだな」と思いましたし、改めて「悠は幅広い、いろいろな表現方法を使っているんだな」と。
藤田:そのとき幹二さん、「声が大人っぽくなったね」と言ってくれましたね。
石丸:悠と遼の間には少し年齢差があって遼の方が若いし、この舞台の経験値も違う。だから実際には同級生なんですけど、気持ちの上で悠アルバスはお兄ちゃんなんですよ、遼スコーピウスに対して。そうすると声のトーンがちょっと違ったりして。人間関係のバランスも、演じる人が変わると違って見えるんですよね。「主導権を握っているのはアルバスだな、それをこうやって引っ剥がしてるのがスコーピウスだ」みたいな、このふたりの関係性が見えてきて面白かったです。
西野:僕にとっての悠くんはもう、完全に「引っ張っていってくれる存在」です。舞台が終わった後でよく「さっきのシーン、さっきのセリフ、どうでした?」と聞くんですけど……。
藤田:なんか不安そうに聞いてくるんで、「よかったよ」って(笑)。
西野:それで「あ、そうかー、よかったー」ってなる(笑)。僕はこれが初舞台なんですけど、悠くんからは「ここはこうだと思うから、こうしてみたら?」というアドバイスもすごくいただけていて。僕も「そうか、じゃあ次はそうやってみよう」というふうに、毎回新しいことに挑戦できているなと思います。どんな球を投げても、悠くんはちゃんとキャッチして気持ちを返してくれるし。だから悠くんは僕にとって「悠くんのためにもっと頑張りたい」と思える存在ですね。
藤田:それは役的にもリンクしているから、あるかもしれないね。モチベーション的にね。
石丸:この物語では、決まってアルバスが問題を引き起こすんですよ。いつもそれをフォローして回るのがスコーピウスだから。そういう意味ではいいバランスだと思いますね。ほかの組み合わせもそれぞれによさがありますので、見比べてほしいです。僕も半年空き、24年からまた新たなハリーの一面を演じられると思います。日本でのロングランを目指していく過程でいろんなキャストが登場します。新たな化学反応を見つけに来ていただければ嬉しいですね。
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、東京・赤坂のTBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中。詳しい情報は公式サイト(https://www.harrypotter-stage.jp)で確認できる。