元の話を限りなく自由にぶっ飛びアレンジしており、いい意味で面食らう「恐解釈 桃太郎」【人間食べ食べカエルのホラー映画コラム】
2023年12月2日 21:00
X(Twitter)のホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、オソレゾーンで配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす!
今回は、オソレゾーンが共同配給を行う「恐解釈 桃太郎」の見どころを語っていただきます。
プーさんが悪魔化したり、メリーさんの羊が殺人鬼になったりと、世界各地で童話や童謡がホラー化するブームが加速。その波に乗って、わが国でも誰もが知っている童話を恐解釈した「恐解釈 花咲か爺さん」が生み出された。これが、こういっては失礼だが、思いのほかかなり良くて、前回のコラムでも「色んな童話をホラー化してほしい! 恐解釈の可能性は無限大だ!」と書かせてもらった。製作側としても手ごたえがあったのだろうか。それから1年どころか僅か1か月ちょっとしか経たないうちに第2弾が放たれた。それが「恐解釈 桃太郎」である。
あるところにおじさんとおばさんが住んでいた。引っ越したばかりの家で2人は平穏に暮らしていた……はずだったが、ある日目が覚めると部屋の様子が変わり、何故か見えない壁に阻まれて外にも出られなくなっていた。そう、何らかの理由で気付かないうちに夫婦は死に、地縛霊となって家にとどまっていたのだった!
やがて、その家に新たな住人がやってくる。一見ふつうの好青年だが、彼は実はシリアルキラーだった! なんとかして家からヤバイ奴を追い出そうとする霊夫婦。そんな2人を助けるべく、霊能力を持つ少女が、番町皿屋敷のお菊さん、コックリさん、メリーさんを従えて立ち上がった!!
いきなり人知を超えたあらすじを書いてしまいすみません。でも、本当にこういう話なんです。恐解釈というか超解釈じゃないか!? 花咲か爺さんのエッセンスをまぶしつつ、真っ当な胸糞ホラーに仕上げた前作から一転して、今回は元の話を限りなく自由にぶっ飛びアレンジしており、いい意味で面食らう内容となっている。
作品のトーンが、どことなくハートフルなのも特筆すべき点だ。確かに、劇中には恐ろしいビジュアルもあるし、普通に人も死ぬし、なんなら飲尿ソムリエみたいな異常シーンも出てくるが、なんか全体を通して平和的に感じる。たぶん、主人公の夫婦が割とおっとりしているのと、少女率いる怪異アベンジャーズが仲睦まじく団らんするシーンの印象が強いからだろう。なんならこの団らんシークエンスで最初から最後まで突き通して、飛び道具的な日常系ムービーとして売り出してもよかったのでは、とすら思う。
このほんわか感が、見ているうちに次第にクセになってくる。今回は、これが最大の持ち味と言っていいだろう。幽霊夫婦が死後も変わらず家で暮らす中、新たに住み始めた青年が狂人と判明し、大切な家で普通に人を殺しまくるので、何とか追い出そうとするパートが大部分を占めているが、このパートののほほん具合と猟奇的要素が組み合わさった空気感はとても味わい深いものがあった。
霊感少女が殺人鬼と霊夫婦が住む家に乗り込む後半部分は、これはこれでまた別種の楽しさがある。メリーさん(ちっちゃい人形)、お菊さん、コックリさん(手)が、それぞれの持つ固有スキルを駆使して戦うシーンは必見。特にお菊さんは、皿一本でどうするんだと思ったら予想だにしない戦闘法が披露されるので驚いた。桃太郎というか血みどろ版「猿蟹合戦」の様相だが、面白いのでOKである。
凄まじく粗削りではあるものの、各キャラの愛嬌のおかげで、最後までゆったりとリラックスして楽しむことができた。本作を手掛けたのは「女囚霊」で注目を集める新鋭・鳴瀬聖人監督。(恐らく)メチャクチャ予算も時間もない中で、ワンダーな空間を生み出す手腕に驚かされました。
あらゆる童話や昔話を恐解釈することで新たな物語を生む。それだけでなく、これからのホラー界を担うであろう新しい才能の登竜門としても、このシリーズは続けてほしいと個人的には思う。第2回まででここまで超飛躍したアレンジを見せられてしまうと、これから先が大変だとは思う。ただ、何度も書いているように「恐解釈の可能性は無限大」だと思っている。また斬新な切り口で童話が生まれ変わることを楽しみにしたい。
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