金馬賞主演男優賞受賞の感動作が沖縄で上映 多民族国家マレーシアの社会問題描く「アバンとアディ」監督トーク
2023年11月29日 19:00

新しい国際映画祭「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」で11月29日、コンペティション部門の「アバンとアディ」が上映され、来日したマレーシア出身のジン・オング監督がQ&Aに応じた。本作は11月25日に台北で行われた中華圏最大の映画賞、第60回金馬賞授賞式で主演のウー・カンレン(呉慷仁)が主演男優賞を獲得している。
マレーシアのプドゥという街が舞台。マレーシア生まれだが、身分証明書を持っていないために、パスポートや銀行口座さえも作れない兄アバンと弟アディの物語。アバンは口がきけない障害を抱え、思わぬ事件に巻き込まれる。そしてふたりは窮地に立たされていく…という物語。マレーシアの状況を反映し、社会問題、人文学、道徳に焦点を当て、数多くの映画をプロデュースしてきたオングの初監督作品で、脚本も手がけた。

中国語の原題は「富都青年」、英題は「Abang Adik」。その違いを問われると、「最初は中国語のタイトルが決まって、脚本は僕が書きました。プドゥ(富都)に生きる若者の物語、身分証のないふたりが主人公になっています。富と付く土地で、リッチなイメージがありますが、そこで働く人は真逆である。そんな意味を込めました」「英語タイトルは直訳してしまうと『富都のティーンエイジャー』のようになると思うのですが、マレーシア映画だということを伝えることでも「Abang Adik」を選びました。アバン、アディは、彼らの名前ではなく、マレー語の固有名詞です」と明かした。
身分証がなく、兄は障害を抱えている。社会的弱者である人々を描いた理由について「マレーシアはマレー人のほか、華人、インド人、その他民族が共生し、多くの外国人労働者を抱えた、多元的なエスニシティを持つ国。私がこれまでかかわった作品でも、ボーダーや社会的弱者に目を向けてきました。マレーシアに生まれても、身分証がない人がいる。それはコロナ禍で特に浮き彫りになったのです。助成金が貰えず、格差が生まれる中で、そのような人たちの物語を題材にしたいという気持ちが生まれました」と説明し、「映画で解決策が提示できるわけではありませんが、映画で触れることで、マレーシアで長年解決されない問題を知り、関心を寄せてほしいと思ったのです」と作品に込めた願いを語る。

オング監督自身が、出稼ぎ労働者として台湾で働いた経験があるという。「私は1999年に台湾に渡りました。フィリピンの出稼ぎ労働者と同じ職場で彼らと過ごし、人間が異郷で働く時に、支え合って生きていくことの重要さが深く身に染みたのです。それは、この映画を製作する私の原体験の一つになっていると思います。そして、マレーシアにおける出稼ぎ労働者のリサーチもして、作品に落とし込みました。この映画の中で描かれることは、一般の皆さんの想像を超えているかもしれません、様々なバックグラウンドをもつ人々が共生し、それぞれの日常を送っているので、いわゆる普通を想像しずらいかもしれません」と自身の経験や心情、そして現在のマレーシアの状況を本作に落とし込んだ。
本編では胸の痛む展開もあり、上映中の会場からはすすり泣きの声が上がった。上映後の観客からも、印象的なシーンについての質問が寄せられた。ラストに近いふたりの会話の場面のセリフは、監督自身が「書き終わって10分泣きました」というほど、思いを込めたそう。そして、本作のテーマを「血縁でも仲が良くない場合もあり、血が繋がってなくてもお互いを思いやることができる。大変で残酷な世界を生きていく中では、愛がモチベーションになり、心のよりどころになる。微細な、言葉には言い表しがたい、さまざまな形の愛があることが伝わればよいと思いました」と語った。
「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」は、11月29日まで、那覇市ぶんかテンブス館テンブスホール等、那覇市内を中心とした会場で開催。チケット、プログラム詳細は公式サイト(https://www.cinema-at-sea.com/)で告知している。
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