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水川あさみ、鬼才の現場で得た新たな感覚「ただ存在すること。それが“芝居の本質”かもしれません」【「唄う六人の女」ネタバレ】

2023年11月4日 12:00

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水川あさみ
水川あさみ

「無表情」「反応しない」……。俳優・水川あさみが、映画「唄う六人の女」(公開中)で石橋義正監督から求められたという演出だ。これまで数々の映画やドラマ、舞台を経験してきた水川にとっても未知なる芝居に、クランクイン前は不安と期待に胸を膨らませたという。演じた役柄は“刺す女”。摩訶不思議なキャラクターに挑んだ日々を振り返ってくれた。(取材・文/磯部正和、撮影:間庭裕基

※本記事には、公開中の「唄う六人の女」に関するネタバレが含まれています。未見の方は、十分ご注意ください。
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●どんな役柄なのかは台本だけでは“不明”「だからこそ興味をそそられました」

これまで「ミロクローゼ」、「オー!マイキー」シリーズ など、独創的な世界観を描いてきた石橋義正監督の最新作。父の訃報を受け帰郷した萱島森一郎(竹野内豊)は、父が所有していた森の一部を売却するために、東京の開発業者・宇和島凌(山田孝之)と契約を交わす。帰りの道すがら山道を車で走っている途中事故に遭い、気づくと、謎めいた6人の女たちが暮らす森奥深くの屋敷に監禁されてしまう。

画像3(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

水川が演じたのは、まったく表情を変えずに萱島に攻撃的な態度をとる“刺す女”。実は、蜂を擬人化した女性というキャラクターだ。

「石橋監督と言えば、非常にエキセントリックな作風という印象があったのですが、この作品の台本を読んだ時も、どんな世界観になるのか、あまり想像ができませんでした。セリフも一言もないですし、ト書きにはある程度、例えば『そこに佇んでいる』とか『指をなめる』など動作の指示はありましたが、どんな役柄なのかは台本を読んだだけでは分からない。だからこそ興味をそそられました。やってみたいなと思いました」

●表情を作らない、反応しない……監督が求めたものは?
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唯一、手掛かりになりそうなのが扮装だった。濃紺の着物をまとった“刺す女”は、手に先の尖った棒を持ち、相手を刺す。

「石橋監督が扮装にはかなりこだわられていたので、衣装合わせの段階で時間をしっかりとられていました。そこで感覚的なものを掴むというか、役を立体化させていく上で、ありがたい過程を踏んでくださいました」

とは言いつつも、まったく言葉を発しないどころか、森に迷い込んだ萱島や宇和島の行動に対して、一切無表情で攻撃を繰り返す。
 「石橋監督からは『表情を作らない』『反応しない』、そして『美しい佇まいでいて欲しい』ということを、念を押して言われました。でも、お芝居って相手との反応によって生まれるものでもあるので、言葉をしゃべらないということが、余計に表情やリアクションで反応してしまいそうになるんです。監督的には“何もしない”ということで余白を作り、観客に考えてもらいたいという意図があったようです。そこにいることが最も重要な役割だったんです」

石橋監督が意図していることは理解できるものの、これまで経験したことのないような芝居。ただそこに存在するという映り方に不安はあったという。

「やっぱり大丈夫なのかなという心配はありますよね。現場にいても全く手ごたえがないから(笑)。唯一のよりどころは監督のOK。石橋監督は、すごく正直な方なので、納得しなければ何回でもテイクを重ねる。OKと言われたら、それがいいんだと思えばいい。そういう意味でシーンを重ねるごとに不安はどんどん取り除かれてきました」。

●大変だったことは「行動意図の”排除”」
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“刺す女”は無表情でチョコレートを食べまくったり、萱島を先の尖った棒でつつきまくるという、非日常的な動作をする。その都度、竹野内の方は予想されるリアクションをするため、その反応につられそうになってしまう。

「役者の癖というか、どうしても行動の意図を考えてしまうんですよね。役を作っていく上で、なぜこういうことをするんだろうと考えるのが普通の発想なので、そこを排除するのは、やっぱり大変でした。一番よりどころにしたのが、人間ではないというところ。もしかしたら蜂にも感情があるのかもしれませんが、基本的に虫なので、本能で生きているんだろうなと。外部から自分たちのテリトリーに侵入してきた“モノ”がいる。その侵入者から自分たちを守ろうという行動は、やっぱり本能なんですよね。そういう考え方をすることで、疑問は解消されていった気がします」。

画像6(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

侵入者としてやってくる人間を演じた竹野内と山田。こちらは人間世界で考える“善と悪”という立場で登場するが、蜂にとっては明確な違いはない。ただの外敵。それでも“本能的”に善悪を嗅ぎ分ける力はある。

「そこも一つの面白さで、本能的に嗅ぎ分ける女もいれば、全然分からない子もいる。6人の特性が全く違うので、その差は面白いなと思います。特に孝之が演じた宇和島は“悪い奴”という雰囲気を人間以外でも察知できるような臭いがある。すごく象徴的なヒール役だったと思います」。

●“蜂”を演じて見えてきたのは、芝居についての本質だった
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俳優デビューから25年以上のキャリアを持つ水川。当然“蜂”を演じるのは初めてだった。

「今回の作品ですごく感じたのが、分からなくていいんだということ。先ほども話しましたが、どうしても役者って表現するうえで感情というものを読み解きたくなってしまう。説明的なものに頼ってしまうんです。でも日常生活において、人ってそこまで言動にすべて意味があるわけないじゃないですか。そこのお芝居というものが一つ新しい目線として備わった気がします。行動の意味を排除する作業というのは、今後どんな役をやるか分かりませんが、いい経験になった気がします。もしかしたら、ただ存在することってお芝居の本質なのかもしれませんね」

水川は、現在放送中の連続テレビ小説「ブギウギ」で、趣里演じる主人公・スズ子の母親・ツヤを好演。明るく元気で人情溢れる娘思いの“大阪の母親”は、本作の“刺す女”とは真逆だ。水川は「役者の面白さですよね」とふり幅の大きな役柄を演じることの楽しさを語っていた。

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